大地の五億年 せめぎ合う土と生き物たち

大地の五億年 せめぎ合う土と生き物たち

177 藤井一至 山と渓谷社

「マザーツリー」の後にこれを読む、というのはなかなかいい順番であった。「マザーツリー」が森に着目して自然を語るのに対して、こちらは土に着目して同じことを考えている。

地球の46億年の歴史の中で、41億年目までは土はなかった。植物が上陸したことで、緑と土に覆われた大地は誕生した。土は多くの自然現象と繋がっている。アフリカのゴリラ、チンパンジーの個体数は熱帯雨林のフルーツの生産量に制限される。人もまた同じである。土の栄養分は、歴史上しばしば食糧生産や人口増加を制限してきた。土を語ることは、そこに生きるものたち、微生物、昆虫、恐竜、そして人間を語る事でもある。土を食べ、土壌を耕すミミズ、岩を溶かすように進化したキノコ、土で塩分を補給するオランウータン。土には様々な物語があり、進化の歴史がある。

人は原野を切り開き、灌漑を行い、農地を切り開いてきた。様々な肥料を使って土壌を改良し、栄養分を与え、作物を育ててきた。だが、その勤勉さは、長い目で見ると養分を枯渇させ、水を汚し、土壌を悪化させ、地球を温暖化させた。そういえば、子どものころ、エジプトのナセルが様々な困難をのりこえ、アスワンハイダムを作り上げたことを素晴らしい偉業だとたたえる雑誌記事を読んだことがある。だが、そのダムは結果として河岸を侵食し、豊かな栄養分を運ぶ力を失わせ、土壌を悪化させた。人間のやることは、目先だけなのか…と愕然とする。

だが、この作者のように土の働きに着目し、土壌劣化を防止し、食糧の増産をはかる目標に向けて研究を進めている人がいるということは大きな希望である。様々な、一見マニアックに見えるような分野にも大きな意味があり、そこに注目して地道に研究を重ね、より良い道を探している人が世界には大勢いる。ということを、この本もまた、教えてくれる。

小難しい本ではない。誰にでも楽しく興味深く読める。たぶん、作者が、本当に好きなこと、本当に大事だと思うことを、熱意をもって書いているからだと思う。この本に出会えたことを、感謝したい。