ラジオ・ガガガ

ラジオ・ガガガ

2021年7月24日

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「ラジオ・ガガガ」原田ひ香 双葉社

 

高校生の頃、ラジオリスナーだった。遠距離通学していたので朝早く出なければならないのに、深夜ラジオを寝ぼけ眼で聞きながら寝落ちしたりしていた。
 
ラジオは、たった一人、私のためだけに喋ってくれている。ような気にさせる。寄せられるお便りの書き手は、まるで古くからの友人のように思え、パーソナリティは何でもわかってくれる人のようだった。信じられる大人はここにいる、と思ったものだった。
 
それから何十年も経ち、私はまたラジオに戻ってきた。きっかけは伊集院光の「深夜の馬鹿力」を小林信彦がエッセイで褒めていたこと。バカバカしい話やシモネタの合間に切実な葛藤や誠実な精神が垣間見えて、どんなことでも肯定して生きていける方法が秘められている気がした。面倒くさいこと、困り果てていることも、笑いのめして乗り越えられそうに思った。
 
この本は、ラジオにまつわる短編が集められている。「深夜の馬鹿力」も登場する。ナイナイの「オールナイトニッポン」も出てくる。ラジオドラマの書き手の話も出てくる。全て、ラジオというメディアへの感謝と愛が込められた物語である。
 
星野源だったかな。忙しいのに、なぜ、ラジオをやるの、ラジオにこだわるの、と問われて「かつてラジオに助けられたから」という答えを聞いた。そうなんだよな。私も、ラジオに助けられた一人である。高校生の頃、もう嫌になっちゃって、明日学校をやめてやる、明日家出してやる、という夜をなんとか乗り越えたのは、ラジオのおかげだったかもしれない。誰も味方がいない、と思っても、ラジオだけは味方だった。それを知っている人たちが、今、ラジオを支えているのだろうな、と思う。
 
ラジオはいいよ。聞かない人も、一度じっくり聞いてみて。テレビではできないことを、ラジオがやっているから。この本も、それを言おうとしているのかも。

2020/8/13