「夜は終わらない」星野智幸 講談社
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そもそもは、木嶋佳苗の物語を読むつもりだった。社会的に冴えない立場の男たちにつけ入り、性的な関係を結び、結婚をちらつかせ、もらうものだけもらっては練炭自殺などを偽装して殺してしまう女が主人公だったから読み始めたのだ。
が、物語は思いがけない方向へ向かう。途中から千夜一夜物語が始まるのだ。物語の中に新しい物語が入り込み、人物が入れ違い、絡み合い、だんだんに訳がわからなくなっていく。これは、一体何だ・・・・?
読み終えて、しばらく呆然としてしまった。だけど、もしかして、とは思う。
木嶋佳苗は虚構の世界を生きていた。ブログの中で、セレブな生活を描き上げていた。彼女が関わった男性たちも、それぞれに色々な虚構を彼女に見せたかもしれない。彼女も、殺されてしまった男たちも、それぞれに本当ではない世界を作り出し、物語の中では、今を生きる本当の自分よりずっと生き生きと、自分の価値を感じながら過ごしていたのかもしれない。ネットという場所は、それを外部に見せつける装置だったのかもしれない。
いや、そんなことはこの物語の中には書いてないのだけれどね。でも、あの事件は訳の分からない物語よりももっと訳がわからないものなので、なんだかそう思えるのだ。
途中で何なんだよ~、と思いながら、でも、どうしても読み止めることができなくて、苦心しながら最後まで到達してしまった、そんな本だった。
2015/7/22