大人エレベーター

大人エレベーター

2021年7月24日

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「大人エレベーター」navigator 妻夫木聡 扶桑社

 

若い頃は、子どもの気持ちを忘れないでいたいと思っていた。いつまでも子どものようにみずみずしくありたい、なんて思っていた。今だって、子どもの頃の気持ちは、やっぱり覚えていたいと思う。でも、たいがいは忘れてしまった。そして、そんなことよりも、大人にならなければ、と思う。
 
大人になることは、汚れていくことでも慣れ合うことでもない。自分でものを考え、判断し、決定し、行動し、結果に責任を持ち、そんな自分を受け入れ、何とかやっていくことだ。そして、そんなアタリマエのことがどんなに難しいかを知ることだ。
 
この本はサッポロ生ビール黒ラベルのCMのために行われた対談を収録したものだ。妻夫木聡がナビゲーター。そうそうたる顔ぶれが集まっている。エレベーターはそれぞれの年齢の階に止まり、そこで妻夫木と話すのだ。
 
2010年に放映されたCMには勘三郎がcharと出演している。読んでいて、涙がでる。だって、こんなことを言っているのだもの。
 
若いころと同じ踊りを踊ってても、三味線が鳴ると自然に体が動く。気が付いたら終わってるっていうのが最近、多いんですよ。(中略)やっとそういう心境になったんだけれど、そうなるとね、これから先は体のほうが動かなくなっていきます。若いうちは動くんです。だけど、気持ちが追いついてないんだね。よく出来てるんだ、悔しいけど。やっと気持ちがそこに至ったら、今度は肉体が滅びていく。踊りなんかは特にね。だから、仕事も大事だけど、やっぱり休みも大切だね。
 
高田純次と岸部一徳は同い年。岸辺が「人生って短いなと思いはじめたんだよね。昔は人生って長いと思ってたけど。」というと、高田が「考えみたらあっという間に60歳過ぎちゃいましたもんね。高校の時に外国に行った奴がいるんだけど、そいつがもう向こうで定年になって戻ってきたから。え?ついこの間、送別会しなかった?って」
 
そうなんだよ。うちも、ついこの間、子どもが生まれたと思ったら、もう上なんて24歳だ。下の子なんて、一昨日くらいに生まれたような気がするのに、高校も二年になって生意気な口を叩いている。ほんと、あっという間だ。
 
古田新太は適当な役者さんかと思っていたら、男でもできるように、求めに応えられるように、タップやクラッシクバレエや声楽までやっていたんだって。クラッシクバレエの踊れるお父さんの役だってできる。それって、すごい。
 
それぞれの大人になり方は各人各様だ。でも、みんなちゃんと大人になろうとしている。それが読んでいて気持ちいい。子どものまんまでいたい、なんて駄々こねていない。
 
人生は短いから、あっという間だから、だからこそ、ちゃんと大人にならなくては。そして、自分を大事に生きなくては。と、改めて思う。ああ、勘三郎の、肉体が思い通りにならない中での踊りを、私は見たかった。
 
(引用は「大人エレベーター」より)

2015/5/18