ひとり旅は楽し

ひとり旅は楽し

2021年7月24日

「ひとり旅は楽し」 池内 紀

作者はドイツ文学者です。1940年のお生まれだというから、もう還暦も過ぎていらっしゃる。落ち着いていて、教養もあって、それでいてユーモアもあって、極上の文章です。

若山牧水と山下清と寅さんが、旅のお手本だという。自分のぴったりの履物を用意し、ふらりと出たふりをしていながら、周到な準備は怠りなく。

>ひとり旅は、のんびりしているようでマメな人のすること。怠けているようでも忙しい。世の中の居候でいて、同時にしっかりと自分だけの世界をもっている。(「ひとり旅は楽し」より引用)

一人で歩いていると、やかましい、と作者は言う。いろんなものが、一緒についてくる。遠い日の幼馴染や別れた恋人が、横でしゃべり続ける・・と思うと、いつの間にか、本当に静寂がやってくる。そこがいいのだ、そうだ。

そういうひとり旅がして見たい、と思った時期があって、結婚したてのころ、わざわざひとりでひなびた温泉にいってみたりもした。独身のころは、親がうるさくて、ひとり旅がしにくかったのもあるし。でも、淋しいのよね。私は、ひとりはあんまり好きじゃない。そのうち、嫌でも一人になるときが来て、旅もひとりでしなくちゃならないのかもしれないけど、願わくば、そうはなりたくない、と思ってしまう。

池内先生の本は、読むから楽しいのであって、やるもんではないのかも。

2007/5/11