女の子は本当にピンクが好きなのか

女の子は本当にピンクが好きなのか

102 堀越英美 河出書房

うちの娘はピンクが嫌いだった。私服の幼稚園に通っていたので、着るものには苦労した。なぜかいただき物の衣類はピンクが多い。そして、彼女はピンクを見ると「これはきらい。」と決然として宣言するのであった。それでも、「これはピンクというより、赤じゃないかなー」とか「ピンクと言っても薄い色だしね」などとごまかして着せることに成功する日もあった。一方、息子はピンクだろうと赤だろうとお構いなし、どんな服でも文句なく着てくれた。そんなわけで、この本の題名をどこかで見たとき、お、これは、とひっかかったのだ。が、別に娘のピンク嫌いが解明される本ではなかった。

19世紀末のフランスにはすでに申請時の女の子にピンクを着せる習慣があったらしい。18世紀フランスにおけるロココ様式の代表色がピンク。マリー・アントワネットはドレスも食器もピンクだったらしい。これは女性に限らず、男性陣もみなピンクを好んでいたとか。この宮廷のピンクブームが18世紀後半にヨーロッパ全土に広まったらしい。

欧米の男児服が男らしくなったのは20世紀初頭のこと。イギリスの小説「小公子」がベストセラーとなり、上流階級の女性たちがこぞって男の子をこの本の主人公セドリックの優美な服装にさせたという。ベルベットに白いレースの襟、「フォントルロイスーツ」を強要された少年たちが大人になったとき「ぜったいにぜったいに息子には男らしい服を着せるぞ!」と誓ったとか。ホントか?(笑)でも、アメリカでは赤ちゃんは男児もピンクを着せられていたという。

1960年代から1970年代にかけて女の子がピンク、男の子がブルーという色分けへの不満がウーマンリブ運動で爆発したという。その後、一時、ベビー服の色分けは沈静化していたのに、またそれが始まったのは、科学の進歩によってお腹の中の赤ちゃんの性別がわかるようになったことが関係しているという。女の子だとわかるとやっぱりピンクを用意する人が増えたのだとか。新生児の服は、贈り物が多い。贈る側も女児はピンク、男児はブルー、と決めておけば選びやすいということもあるのかも。ちなみに私は生まれるまで絶対性別を教えないでくれと医師にたのんだし、赤ちゃん用品は性別で選びもしなかった。洋服はほとんどが三つ上の姉の子のおさがりで済ませたので選択の余地もなかったしね。

というような歴史から始まって、日本における「ピンク」の歴史も語られる。どこか卑猥なイメージのあるこの言葉がピンクレディー登場後にはつらつとしたものに変わって行ったという指摘は目からうろこであった。何しろ、レンジャードラマで女性を「ピンクレンジャー」にせずに「モモレンジャー」にしたのは、ピンクだと卑猥っぽいからだったそうだから、驚く。

この本は、おもちゃの色合いにも触れている。パステルカラーのレゴが発売された経緯や、バービー人形、リカちゃん人形などの歴史にも触れられている。最近の人形はSTEMドールといって理科系の職業を示唆するものも発売されて人気だというからびっくり。パソコンを手に持ったり、科学実験を楽しむお人形さん。それもいいよなーと思う。なんでお花屋さんやケーキ屋さんばっかりだったんだよ、と確かに思うものね。

全然、本筋とは離れるのだが、女性のアイドルグループでは、ある程度年齢が上がると「卒業」と称して追い出されるのだけれど、男性のアイドルグループはそのまんま全員で年を重ねていくよね。「少年隊」なんて今やおじさん、いや、うっかりするとお爺さんに入ろうとしているのにね。

などということにも気づかされた本書であった。そういえば、私、若いころ、ショッキングピンクのワンピースとか好きだったなあ。かわいいとかよりも、攻めてる感じが好きだったんだが。色なんて好みよねー。「女の子だからピンク」には抵抗したいと思うが。

これ、軽い本に見えて、実はものすごく様々な文献に当たった渾身の一作なんじゃないか。