小泉今日子原宿百景

2021年7月24日

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「小泉今日子 原宿百景」スイッチ・パブリッシング

 

小泉今日子のアイドル全盛期を私はあまり知らない。熱心にテレビを見、歌謡曲を聞いたのは、その少し前の時代までである。ちょうどテレビをろくに見ない時期に、彼女は活躍していたらしい。だから、私の知る小泉今日子は、どちらかと言うと女優である。ドラマ「あまちゃん」や、こまつ座の「頭痛肩こり樋口一葉」の舞台のほうがずっと印象が強い。
 
どうやらこの人は文章もかなり書けるようだ、と幾つかの雑誌や新聞で知っていた。この本を読むと、なるほど、すごくちゃんと書ける人である。しっかりものを見て、自分の心で受け止めて、それを人に伝える技術と熱意がある。チャラチャラしたアイドルだったのかと思いきや、いつも考え、選んできたのだなあ、と感心する。
 
アイドルって大変だ。自宅がファンにバレると人が押し寄せてきて、近所に苦情を言われ、すぐに引っ越さねばならない。深夜に帰宅したらピンポンが鳴って、外に出たらダンボールが置かれていて、その中には猫が入っていたのだが・・・というエピソードには鳥肌が立つ。いわれのない憎しみや嫉妬や嫌がらせの対象ともなるのがアイドルというものなのである。
 
亡くなってしまった後輩アイドルへの一文に、彼女の思いが込められている。悲しみと後悔と諦めと思いやりと、いろいろな感情が、こんなふうに表現されるんだ、としみじみ読んでしまう。
 
私は原宿のすぐ近くの高校に通っていた。小泉今日子が原宿で過ごしていた時代より、ほんの少しだけ前の話だ。時々、私たちはベルコモンズから青山通りをてくてく歩いて原宿へ行った。原宿が、まだ今みたいに騒がしくなかった頃だ。同潤会アパートも、セントラルアパートもあった。バンブーというサンドイッチ屋さんで具を選んでパンに挟んでもらうのがごちそうだったっけ。アイスクリーム片手に歩きまわったっけ。なんだかその頃が懐かしい本であった。

2016/4/25