身の上話

身の上話

2021年7月24日

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「身の上話」佐藤正午 光文社

 

私は宝くじを買うのが苦手だ。数年に一度、間違って買うことがあるのだが、その後、へとへとになる。買った瞬間に、当たったらどうしようと、そこら中の鬼が寄り集まって大笑いをするような妄想に取りつかれるからだ。
 
当たったと知る瞬間、そこから身支度し、持ち物を整え、銀行に行くまで。銀行の応接室でのやりとり。「ええ、もちろん現金ではいただきません、口座を作って、そこに入れて下さい。3分の1は定期預金にして構いません。ええ、使う予定もないですから・・・・。」さて、誰に知らせよう。夫はいいが、子どもたちは黙っているべきか。とりあえず、いつもと変わらぬ生活をするにせよ、おお、このふわふわした気持ちたるや。
 
この本は、宝くじで二億円あたっちゃった若い女性の話だ。それも、自分のお金じゃなかったから、結構ややこしいし、それがなくったって、十分ややこしいことに巻き込まれてしまっている。
 
物語を語っている彼女の「夫」が一体いつ出てくるのか、どういう立場の人なのかもなかなかわからない。じりじりする。
 
読みながら、私の宝くじ妄想は広がる、広がる。買ってもいないのに。何日も好き勝手して、改めて預金通帳を眺めても、その数字はびくともしていない、という表現に、あらまー、と思ってしまう。
 
結構長い旅に出た、新幹線の中で読んだら全然飽きなくて、眠くならなかった。旅のお供にはいいかも。でも、しばらく妄想にとりつかれたけど。危ないから、宝くじを買うのはやめようっと。

2014/8/5