東京貧困女子。

2021年7月24日

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「東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか」

中村淳彦 東洋経済新報社

 

経済が上向きだなんて思わない。景気が良いとか言われても、信じない。一部の企業、一部の富裕層は富を溜め込んでいるかもしれないが、大勢の人達は、どんどん貧困化している、と思う。肌でそう感じる。
 
少し前までは、若い女性はとりあえず夜の仕事につけば、食べていくことができたかもしれない。だが、今や夜の仕事、それも風俗や売春といったアウトな仕事についてさえ、食べていけないらしい。その種の仕事にも価格低下の波は押し寄せて、文字通り体をすり減らせても、十分に食べていけない現実があるという。
 
この本は、女性、特に単身女性とシングルマザーに焦点を当て、その人達に実際に会って話を聞くところから貧困の現実を描き出している。それは、信じられないほど悲惨な状況でありながら、あるだろうなあと信じられてしまうことばかりである。彼らを底辺層の人たち、とひとくくりにすることすらできない。なぜなら、四年制大卒どころか大学院も終了したり、留学経験を持つような高学歴女子でさえ、働き口を見つけることができずに貧困にあえいでいる現実があるからである。
 
司書資格を持ち、公立図書館で、時にフェアや講演会も企画する「できる司書」は、実は非正規の有期雇用である。五年後、雇用を打ち切られても、文句も言えない。たとえ再雇用されたとしても、昇給の見込みはない。この先どうなるのか、という不安が常にある。今や司書の八割が非正規雇用だという。そんな状態で、より良い図書館が維持できるのか、と本好きの私は自己中心的発想からも憤りを感じる。
 
奨学金制度は、今や公的な消費者金融的側面を持つ。親が学費を出してくれないので、奨学金に頼ってバイトしながら大学に通っていたら、奨学金を親が使い込んでしまい、ただただ借金返済に追われるようになった女子大生。両親が亡くなって、精神疾患を持つ妹の介護のために、仕事も続けられず、財産をすり減らし、貧困に陥った女性。夫の暴力に耐えられず、子供を抱えて離婚したら、養育費が途絶え、必死に働いていたら自分も体を壊し、身動きが取れなくなった女性。
 
シングルマザーの貧困は高率である。何しろ、養育費の支払いは八割が中断する、という。最後まで支払う男性は二割しかいないって・・・・あまりの不誠実さに、言葉も出ない。
 
貧困女性の行き着く先は、風俗か介護の仕事であるという。介護の仕事は人のためになり、女性の暖かさ、家庭的な優しさが求められる、と美しい福祉の理想が掲げられるが、現実は単なるブラックである。昼夜を問わず働き詰めて、お年寄りの体を支えるために腰を痛め、体を壊し、しかも低賃金。夜勤で男性職員からのセクハラも横行するという。
 
精神疾患、借金、自傷、育児放棄。様々な問題の根本には、国の制度と法律改定がある。あとは男性からの暴力だ。必死に生きてきても、それを「自己責任」の一言で片付けられてしまう、そんな国に私たちは生きている。
 
この国はこれからどうなってしまうのか。待っているのは絶望だけのように思えてくる。国家予算を私費流用して桜なんて眺めているあの人が、なんで政権を持ち続けているんだろうね。

2019/11/21