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「狸の夫婦」 南 伸坊 筑摩書房
最初に南伸坊のエッセイを読んだのは、まだ二十代半ばの頃だった。学生時代の友人が、これ、面白いよ、といって考現学関連のエッセイを教えてくれたのを覚えている。ザラ紙に印刷された不定形横広の本だった。ってことまで覚えてるのに、なんで題名を覚えてないかなあ。
とにかく。それはとても面白かったのだ。それから、「歴史上の本人」のような、半分悪ふざけのような、けれど本人はいたって真面目な本も読んだ。最初の本から、「ツマ文子」はレギュラー出演していた。顔も見たことないけど、最初に読んだ時、「すごく若い人だなあ」と思ったのを覚えている。ところが、この本を読んでも、まだツマ文子は若いのだ。と言うか、若くなきゃできないぜ、と思うような突拍子もない発言をするのである。そうか、最初から、ただ単に、そういう人だったのね、と今頃気づく私である。
この本には、日常の、ごくなんでもない出来事ばかりが書かれている。どうでもいい、すぐに忘れてしまうようなことばかりだ。でも、だからこそ、ものすごく面白い、と私は思う。本当に面白い事は、日常にいっぱい転がっていて、次々と忘れ去られてしまうのだ。なんてもったいないんだろう。
南伸坊のエッセイを読むたびに、仲の良い夫婦だなあ、と思う。最初に読んだ頃は、まだ私も未婚であったので、こんな仲の良い夫婦になれたらいいなあ、と思った。それから幾歳月ありまして。今や、我々も辛坊家に負けず劣らず、発想ばかり突拍子も無い大人げない夫婦である。いやあ、よかったよかった。っって、そんな結論かい!
2012/1/11