国宝

国宝

2021年7月24日

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「国宝 上 青春編」吉田修一 朝日新聞出版

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「国宝 下 花道編」 吉田修一 朝日新聞出版

 

朝日新聞朝刊の連載小説。連載中から気にはなっていたが、毎日、ちまちまと読み続ける自信がなくて、本になってから読もうと決めていた。読みだしたら一気だったので、その選択は正解だったと思う。
 
北九州の極道の家に生まれた一人息子が、歌舞伎の人間国宝となるまでを描いた大河小説。そこに様々な人物が絡んで、見事に面白かった。
 
語り口が、まるで講談か何かのようなのだが、それがまた、いい。するすると引き込まれていく。登場人物が、一人ひとり個性的で、それぞれに愛せる。裏切りも、三角関係もあるのに、そのどちらの気持ちも理解できるし、許せる。戦後から昭和の終わり頃までの物語だが、時代性も丁寧に描かれて、あのときはこんなだったなあ、と思い出しながら読めて、本当に楽しかった。
 
歌舞伎っていいわあ、と改めて思う。もっと安けりゃ更にいいのだが、あれだけの劇場、あれだけの舞台、あれだけの役者、あれだけの衣装を支えるためにたくさんのお金が必要なことも、十分わかる。たまに無理して見に行くのが身の丈だなあ、と思う。ハレの日を味わうという感覚も、悪くない。
 
病院の待合室で読んだのだが、たまたま、それが、病気の進行に気づかず、じわじわ死んでいくシーンだったので、なんとも身につまされると言うか、気をつけなくちゃ、頑張らなくちゃ、という気持ちにさせられもした。
 
いい物語だった。
 

 

 

 

2019/3/16