美しい距離

美しい距離

2021年7月24日

165

「美しい距離」山崎ナオコーラ 文藝春秋

 

2016年上半期の芥川賞候補にノミネートされていたらしい。静かな美しく悲しい物語だった。いや、悲しいと言わないのだろうか・・・・。
 
子のない夫婦の、妻の病気と最後の看取りの物語。抑えた筆致で静かに描かれている。本当にひどくつらく悲惨な状況は一切表現されていないし、もしかしたらそんなものはなかったのではないかとさえ思わせる。
 
最後まで希望を持つということの意味や、思いやり深い言葉なのに心にかちんと来てしまう事柄、亡くなった後の感情など、静かで美しいのにリアルに心に染み込んでくる。
 
人はいつか死ぬ。それが避けられないものならば、こんなふうに静かに諦めて受け入れていきたいと思う。残された時間を思わずにはいられない年齢になった者に、しみわたる物語だった。

2017/2/9