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「DRY」原田ひ香 光文社
「幸福な食卓」のあとにこれを読むと、あまりに真逆なので戸惑ってしまう。あれが、互いに大事に思い、気遣い合う家族の姿だったとしたら、これは、自分のことしか考えていない家族が、自分の都合のためにだけ寄り集まっている。もう、すごいね。あからさますぎて、いっそ清々しい。
「毒になる母」とか「母がしんどい」みたいな本に登場する、困った母親のオンパレード作品。そして、彼らにどう対応するか、独自路線を築くしかない子供側の事情。そこに老人介護の問題が絡んで、どんどん怖くなる。いやあ、怖かった。
だけど、完全に他人事の物語ではない。家族っていろんな形態があるし、そして、年をとった親をどう看取るか、は誰にでも降り掛かってくる深刻な問題だからね。自分を振り返って、ゾッとするところもある。
この本は、娘の定期演奏会（吹奏楽）を聞きに行くための新幹線の中で読んだ。「幸福な食卓」といい、「DRY」といい、親子関係にまつわる本を読んで娘に会いに行くというのはなかなかだなあ、と我ながら思う。娘が家を出て二年半。こっちは最近はすっかり親業を放棄してしまって、自分と夫のことだけ考えていればいいので、楽でしょうがない。で、たまに娘のところへ行くと、「私は親だったのか！」と思い出してしまう。そんなに口うるさい母のつもりはなかったのだが、ことあるごとに口を出したくなる自分に気づいてはっとする。
「早く食べちゃいなさい」
「明日は早いんだから、いつまでもスマホいじってないで、さっさとお風呂入りなさい」
「何度も目覚ましを鳴らしたまんま寝てるんなら、最終時刻一発で起きたほうがずっと効率的でしょ」
「食べた瞬間に食器を洗えばすぐに済む！」
もう、言いたくて言いたくてウズウズするのだ。そうか、こういうことを、かつては全部言っていたのか。見張っていたのだなあ。そりゃ疲れるわ、お互いに。
そういう役目を下りてしまって、今やとっても楽になっちゃったわけなので、今更また戻るのも何だし、と、結局、言いたいこともあんまり言わないで滞在期間を過ごしてきた、つもりだが、それでも娘にしてみれば「口うるさいお母さん」ではあったのだろうなあ。
2019/12/1