ロンドン・ペストの恐怖

ロンドン・ペストの恐怖

2021年7月24日

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「ロンドン・ペストの恐怖」D・デフォー 小学館

というわけで、感染症小説の一環としての「ロンドン・ペストの恐怖」である。デフォーといえば、言わずとしれた「ロビンソン・クルーソー」の作者である。1665年、ロンドンで起きたペストの大流行の顛末を淡々と記録したノンフィクション(といっていいのかな?いいんだろうな。)。

8月22日から9月25日までの五週間で死亡者合計38195名。当時のロンドンの人口50万人の1/6がペストに命を奪われた。最初は二人の男性が死亡、そこからその近所で次々と人が死んでいく。被害はどんどん広がり続け、人々は、家に閉じこもったり、市外に疎開したり、死を覚悟したり。いろいろな人の姿が、客観的に描かれていて、まるでデフォーだけ安全な場所に匿われているみたいだが、実はその渦中にあったのだな、と後で気がつく。それくらい、ドライに描かれていて、逆に言えば感情がない、人間味がないとも言える。が、それでも面白い。と言っては不謹慎なのか。

怯えていた人々が、最後の方ではもうやけっぱちになったというか、諦めをつけたというか、どこにでも堂々と出かけるようになり、教会の礼拝に行くようになり、牧師が倒れれば、他の宗派の牧師が平然と説教を始めたりもする・・・。どんな恐ろしい事態の中でもなお、人間は徐々に「慣れる」ものだというのがこの本のなかからも学び取れる。恐ろしいことだが。

翻訳がわかりやすく、読みやすく、面白いので感心していたのだが、なんと栗本慎一郎氏であった。何だ、あの人、上手だったのね!政治なんて手を出さずに翻訳に勤しまれてればよろしかったのに、と思ってしまった。

当時のロンドンは、疫病の原因も、防ぎ方もわからなかったが、私達は、原因も、防ぎ方も知っている。怯えすぎず、国のお馬鹿な方針に丸め込まれず、なんとかこの局面を乗り切りたいものだけれど。来月の引越しのときにはどうなってるかなあ・・・。

2020/3/14