三月の招待状

三月の招待状

2021年7月24日

72  「三月の招待状」  角田光代  集英社

大学時代の仲間の一つのカップルの離婚式から始まる物語。学生時代にわちゃわちゃやっていた仲間。なんどもくっついたり離れたりして、諦めたように結婚したものの、結局離婚することになって。そこに集まっていた一人の女は、年下の恋人と暮らしながら、また別の、昔きらめいて見えた仲間の男に未だに心惹かれている。不妊治療を諦めたもう一人の主婦は、その男と不倫に走る。

あー、こう書くとありきたりだわ。ってか、実際にありきたりなんだろうか。物語は、確かに角田ワールドにはなっていると思うけど、やっぱりどこにでもあるテレビドラマみたいなお話なんだろうか。

学生時代、確かに私たちもわちゃわちゃと騒いでいた。仲間同士だという感覚は、男女の関係を超えてあったけれど、その中にやっぱり恋愛もあった。その頃の仲間で、今も関わり合っている大事な友人もいるし、めったに連絡を取らなくなった人もいる。そういう実感が確かにこの物語の中にもあって、ああ、わかるわかるとも思うけれど、でも、やっぱりもっと私たちは大人になってるんじゃないかとも思う。

みんなが感情的になってくっついたり離れたりしている間、それに疎外感を持ち、痴話喧嘩でむちゃくちゃになった場で、ただひとり、ここのお勘定は誰が払うんだろう・・としごく現実的なことを考えてしまっていた女性に、私はわりと共感する。疎外感は、たしかにあった。でも、みんなにもあったのだろう、と同時に思う。仲間意識なんてものは、その場の幻みたいなもので、その中にどっぷりと浸かり込むことは、やっぱりできなかったようにも思う。

仲間のこれからを心配して、皆で集まって話し合うはずが、何を食べるか何を飲むかで論争になってしまうような仲間。やっぱり、これは小説の中のお話なのかな。私たちは、もっと、個々に、そっと、大事なことを知らせあう。もっと密やかに、助けあう。そして、あんな疎外感も、いつの間にか何処かへ行ってしまった気がする。仲間と私、ではなく、あなたと私、という関係をいくつも積み上げて、今の私はできてきたのかもしれない。

2011/7/8