史上最強の哲学入門

2021年7月24日

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「史上最強の哲学入門」飲茶 マガジン・マガジン

 

作者は「グラップラー刃牙」のファンらしく、この本も「バキ」に基づいて書かれているのだそうだが、私は「バキ」は全く知らない。だとしても、ちゃんと読めてしまうので、ここでは一切「バキ」には触れないことにする。
 
つまるところ、この本は、哲学の入門書である。より強い論を求め、知を戦わせててきた男たち(今気がついたのだが、「男たち」なのよね。女性は出てこない。そうなのか。)が集って戦うラウンドが4つ。
 
第一ラウンドは真理の「真理」を求めて、プロタゴラス、ソクラテス、デカルト、ヒューム、カント、ヘーゲル、キルケゴール、サルトル、レヴィ=ストロース、デューイ、デリダ、レヴィナスが集まる。
 
第二ラウンドは国家の「真理」を求めて、プラトン、アリストテレス、ホッブス、ルソー、アダム・スミス、マルクスが、
 
第三ラウンドは神様の「真理」を求めて、エピクロス、イエス・キリスト、アウグスティヌス、トマス・アクイナス、ニーチェが、
 
第四ラウンドは存在の「真理」を求めて、ヘラクレイトス、パルメニデス、デモクリトス、ニュートン、バークリー、フッサール、ハイデガー、ソシュールが集まる。
 
哲学の入門書的な本は今までにも何冊か読んだことがあるが、この本ほど明白に、様々な哲学者の思想を咀嚼して、作者が自分自身の言葉で書ききったものは他にないかもしれない。非常にわかりやすく、かつ興味深く説明してある。たぶん、作者自身が、本当に自分の考えたことに従って書いているからなんだと思う。みんなそうしてるんだよ、と言われればそれまでだが、ここまでしっかり咀嚼してある文章は珍しいと思う。
 
子どものころ、ぼんやりと信号を見上げながら「みんなが見ている緑色と私の見ている緑色は本当に同じものなのだろうか」とか「私に見えているものは、本当にここにあるもので、私の見えている通りのものなのだろうか」などとわけのわからないことを考えていたことを思い出す。遠い昔の哲学者も、似たようなことを考えていたのだなあ、と思う。
 
パルメニデスがいう「存在するものは存在する。存在しないものは存在しない。」なんて、いがらしみきおと同じこと言ってるよなあ、と思ったりする。
 
フッサールの「もしかしたら、この世界は、別世界の水槽の脳が見ている夢なのかもしれない」という疑いなんて、伊集院光がシモネタだらけの深夜放送の中で、突然ぽろっとつぶやくことと同じだ。
 
つまり、みんな人間は似たようなことに疑問を持ち、それは何なのかをずっと考えてきたのだ、と改めて思う。
 
哲学を学ぶこと、考えることは最終的にこの世の真理に近づこうとするものであって、それは、例えば量子力学や物理学に行き着くものでもあって。すべての学問は、結局、最終的には同じところへ行き着くのだ、とまたもや思い知らされる。我が子が大学受験に際し、文系にしようか、理系にしようかと迷っている時に、最終的に同じところに行き着くから、何やったっていいじゃ~ん、同じじゃ~んと無責任に言った私。でも、そういうことなのだよ、うん。
 
それにしても、太古の昔から、人間は考えてきた。科学が発達していなくても、様々なことが明らかになっていなくても、考えることは同じで、行き着くところも同じで、結局、人はいつもいつも同じように考えている。そして、考えるって、なんて大事なんだろう、と思う。なぜ。どうして。どうすれば。どのように。何を。なんのために。見えない、分からない、つかめないものを、人間はずっと考えてきた。だから、ここまで来たのだと思う。
 
なんかね、最近、「考える」ことを放棄する人が多い気がして、気がかりでならない。考えるのは、「どう見えるか」「ひとにどう思われるか」なんていう、本質からずっと離れたことばかりで、選ぶ、判断する、行動する事は他人任せで、だから責任も一切取らない。考えるって大事だよ、とそういう人一人ひとりに、しみじみ言ってみたい気がしてしまう。考えるところから、人は生きていく。
 
それにしても、こういう面白い、興味深い本を読むと、ああ、この本について複数人で、できれば十人程度で、じっくり語り合いたい、出来ることなら数日間かけて、テーマも絞って思う存分、脱線しながら思いの丈を言い合いたい、と切望感が湧いてくる。学生時代は、そんな贅沢なことをやっていたのだなあ。今はそれが出来ないもんなあ。
 
(かつて読書会に参加していたこともあったが、つい熱くなってしまって、私、どんどんしゃべると、いつの間にかみんな黙ってしまうのよね。どうして、私を押しのけて「でもね」を言ってくれる人がいるような会がないのだろう、と思う。わがままか。私がいけないのか。まあ、それが得られないからこそ、こんなブログを書いている、ということなんだよな。)
 

2019/8/9