はっとりさんちの狩猟な毎日

2021年7月24日

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「はっとりさんちの狩猟な毎日」服部小雪 河出書房新社

服部文祥の妻のエッセイ集。服部文祥は、獲物を調達しながら長期間山を旅することをライフワークにしている登山家である。狩猟免許を持って、ライフルを担いで山に入り、その日食べるものを自分で狩る。手に入らなければ、空腹に耐える。できるだけ自然な形で生きることを志向するひとである。前に、この人と、内澤旬子の対談を聞きに行ったことがあって、鹿なんか担いで家に帰ると近所の人も貰いに来るし、解体を子供も手伝うよ、なんて言っていて、そうか、こいつ、家族がいるのか、と思ったものだった。こんなめんどくさそうな男と結婚し続けているなんて、どんだけタフなひとだろう、と思っていたら、ものすごく素直でまっすぐな女の人だった。

服部文祥は、結婚前、危険な冬山に行ってしまった。もし何かあったらどうするの、と小雪さんが聞くと、ギリギリのところで頑張ってるんだから、呪いをかけるな、と言われたという。そうか、自分のことしか考えてなかった、と小雪さんがいうと「全くだ。二度としないでね。」と言われたという。おい、怒れよ、と私は思う。

2歳と4歳の子どもを抱えているとき、文祥は日高全山単独縦走に挑んだ。大きな台風が現地を直撃し、連絡が途絶えた。二週間以上何の連絡もなく、彼は死んだのか、と不安にくたくたになっていたら「生きてます。借りた携帯だからあんまり話せない」と電話が切れ、そのまた二週間後にようやく下山した。「あなたが留守の間、大変だったんだよ」と言ったら「いや、おれのほうが絶対大変だった」という。これに対して小雪さんは

冒険家が長旅から家族のもとへ帰ってくる光景は、人生の夫も美しい光景として私の心に刻まれている。     (引用は「はっとりさんちの狩猟な毎日」より)

なんて書く。おい、怒れよ、と私は思う。

生協で豚バラなどのトレイに乗った肉を注文しているのを見つかると、狩ってきた鹿があるだろう、と文祥は嫌がる。そしてすぐにヌートリアやイノシシを多めに狩ってきて解体する。お弁当のおかずにヌートリアの唐揚げ。子どもが「普通に美味しかったよ」というと、小雪さんは「よし」という。でもさ、トレイに入った肉、楽だし便利だしおいしいじゃない。なんで常に狩猟肉しか食べちゃだめなの。怒れよ、と私は思う。

クーラーの効いた品川の出版社に勤めている文祥は、家にクーラーを買うことを許さない。工夫して暑さをしのげ、という。できるだけ自然な生活を、と思う小雪さんではあるが、あまりの暑さに、さすがに「家出でもしようかしら?」と思った。そうしたら猛暑日は終わってしまった、と書く。おい、怒れよ、と私は思う。

服部文祥は、自分が自分らしく生きるためにちゃんと物を考えている、という。常識にとらわれることだけが正しいわけじゃない、とも言う。言っていることはわかる。が、なぜ、それに家族がこんなにも巻き込まれなければならないのだろう。小雪さんは、素直で、文祥のことを信頼しているし、愛しているから、それに従っているのかもしれない。でも、もっと自分の都合を主張してもいいと私は思う。子どもを育てるのって、ものすごく大変だからね。それに、人はそれぞれ違っているし、考えることも全部同じなわけがない。うまくやっていくためには、片方だけが我慢するのは間違っている。互いに譲り合わなければ、甘やかしと甘やかされの関係になってしまう。

小雪さんは、本当に真っ直ぐで素直で素敵な女性だな、と思ったけれど、もっと言わなきゃだめだよ、怒れよ、と何度も思ってしまった。おーい、服部文祥、聞いてるか~!!

2019/9/20