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「あの庭の扉をあけたとき」佐野洋子 偕成社
中編と短編が収められている。
中編は、表題作。
おとうさんと散歩に行ったときにみつけた古い西洋館には頑固なおばあさんが住んでいて、きれいな花を咲かせている。わたしが病気になったとき、夜中に病院で出会った女の子は、あのおばあさんだったらしい。
わたしは七十になったけど、七十だけってわけじゃないんだね。生まれてから七十までの年を全部持っているんだよ。だからわたしは七歳のわたしも十二歳のわたしも持っているんだよ。あんただって、五歳のあんたを持っているだろう。だから八つのわたしと五つのあんたは遊べた
短編は「金色の赤ちゃん」。
佐野洋子は冷徹なリアリストだ。「いじめはいけません」なんて物語は書かない。しょっぱなに、こう書く。
わたしはとも子ちゃんがきらいです。
気持ちわるいんだもの。
そして、みんながとも子ちゃんをはやし立てると一緒になって
「なーまぐさい、なーまぐさい」
と大きな声でいう。だけど、とも子ちゃんは金色の赤ちゃんを抱いて
「ほら、みてごらん、これ、ようこちゃん」
といいます。
「すごく、かわいいでしょう。よしよしよし、ね、わたしようこちゃんだいすき。そうっとなら抱いていいよ」
という。金色の赤ちゃんが沢山いて、金色の花が振り、二人も金色に光りはじめて、
「いいよ、このまんまで」
わたしはとも子ちゃんの手をにぎって、
「ねえ、このまんまでいいよね」
と二人で歩き出す。
つらいことや嫌なこと、汚いこと、全部飲み込んで、それでも金色に輝いているものを、佐野洋子は描き出す。すごい、と思う。
(引用はすべて「あの庭の扉をあけたとき」佐野洋子 より
2014/10/6