雪と珊瑚と

雪と珊瑚と

2021年7月24日

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「雪と珊瑚と」 梨木香歩 角川書店

梨木さんの新作です。「西の魔女が死んだ」から、ぐるっと一周りして、同じじゃないけど似たところに帰ってきたみたいな感覚がありました。

シングルマザーが、子どもの預け先がなくて、途方に暮れているところから始まって、母のように受け入れてくれる人に出会い、アルバイトをし、そこから、新しい仕事に踏み出していきます。

こんなにうまく行くはずがない・・・と思うほど、すべてが美しく回っていく。もちろん、嫌なことや苦しいこともあるけれど、それも全てひっくるめて、穏やかに静かにすべてを受け入れていくような物語です。

そう、そんなにうまくいくはずはない。とどのつまり、この物語は、願いや祈りのようなものなのかもしれません。珊瑚という主人公に、たった一人、敵意をむき出しにしたある女性の怒りをも、珊瑚は受け入れてしまう。その気持ちは、実は私にはわかる気がします。その怒りの有り様もわかる、それを受け止めて、自分を理解するすべにしてしまう珊瑚の気持ちもわかる。

でも、それがわかるまでに、私は何十年もかかりました。年若い、苦労ばかり重ねて、母の愛さえよく知らない珊瑚が、なぜ、そんなことをもう知っているのだろう、と私は首を傾げます。そこに、傷はないのか。血は流れていないのか。ひりひりした痛みはないのか。怒りはないのか。

だからこそ、これは、おとぎ話のような夢の物語なのだ、と思ってしまいます。

2012/10/23