クリスマス人形のねがい

クリスマス人形のねがい

2021年7月24日

月に一度だけ、私は某所で絵本アドバイザーのボランティアをやっています。アドバイザーなんて立派そうですが、なんてことはない、絵本がずらっと並んだ部屋の隅っこに座っていて、何を読んだらいいか相談されたら、本選びのお手伝いをすればいいだけなのです。

お客さん(?)がたくさん来る時もありますが、今月は、まるきり暇でした。小学校低学年くらいの男の子が一人、入ってきたと思ったら、「エルマーのぼうけん」を取り出して、読み始めました。あんなに熱心に読んでいるなんて、この子、本物だわ、本物の本好きだわ、と思わずうっとり眺めてしまいました。良い光景だなあ。

それきり、誰も来そうもありません。こんな日は、棚に並んだ本、読み放題。うっふっふ。というわけで、端から書棚を眺めて回っていたら、この本を見つけました。

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「クリスマス人形のねがい」 ルーマー・ゴッデン 岩波書店

季節外れでごめんなさい。でも、思わず読みたくなったのです。というのも、その昔、小さかったころ、私は、同じ作者の「人形の家」という本が大好きだったのです。トチーという人形が、私は好きでしたが、「ことりさん」というふしぎな人形も印象的でした。人形たちは、黙って並んでいるだけですが、心のなかではいろいろなことを考えていて、ときどきは争いだってあるし、いろんなドラマが起きているんだ・・と、今でも思ってしまうほど、人形たちは物語の中でいきいきとしていました。だから、同じ作者の人形のお話だ!と思ったら、読まないわけにはいかなかったのです。

たった一人で施設に行かなければならないアイビーという小さな女の子は、おばあちゃんのいるアップルトンという町に行くと決意します。本当は、おばあちゃんなんていないし、そんな名前の町だってあるかどうか分からなかったのに。彼女は、施設に行くための手紙を引きちぎって、一人で汽車を降り、おばあちゃんを探すのです。

はじめての町を歩くアイビー。どんなに心細いだろうと思ったら、そうじゃない。アイビーはこの町が好きになって、少しも怖がらずに、おばあちゃんのいる家を探すのです。そして、おもちゃ屋さんの窓で、クリスマス人形を見つけるのです。

クリスマス人形のホリーは、自分を大事にしてくれる女の子に会うことを夢見ています。他のおもちゃたちは、みんな買われていくのに、自分だけが取り残されて、がっかりしながら。そして、アイビーを見つけるのです。

この町の、おまわりさんの奥さんは子どもがほしいと思いながら、夫婦だけで暮らしています。子どもはいないけれど今年はツリーを飾ってみよう。子どもがいたらなあ、と奥さんは少し悲しい顔をします。

たった一人で、夜を迎えたアイビーは怖がったり悲しがったりしません。パン屋さんの粉を置く小屋で、一晩を過ごします。何度も何度も、おもちゃ屋の窓を眺めに行きながら。そして、ひょんなことから、アイビーは、「自分のいえ」を見つけます。アイビーは、ここが私のおばあちゃんの家、とおまわりさんの手を引いて連れて行くのです。おまわりさんの家へ。

この物語でも、人形たちは、それぞれに色々な思いを胸に抱いていました。そして、強く強く、ねがっていました。ねがいはかなうのです。人形のねがいも、アイビーのねがいも、奥さんのねがいも。

私は、アイビーみたいに強くて、真っ直ぐ前を向いて、自分に悪いことなんて起こるわけがないと信じて、ほしいものに向かっていく、小さな女の子が、大好きです。そんな女の子になりたいと、昔から、思っていました。そんなに強い女の子には、結局なれないまま、ふてぶてしいおばさんになってしまいましたが。

アイビーが幸せになり、人形も奥さんも、夢がかなって、温かい気持ちで、本を閉じました。エルマーに読みふけっていた男の子は、「あと少しなのにいいい!」と言いながら、お母さんに引っ張って連れて行かれました。あーあ、彼のねがいもかないますように。

2012/10/6