与太郎戦記

与太郎戦記

2021年7月24日

176
「与太郎戦記 ああ戦友」 春風亭柳昇 ちくま文庫

高野秀行さんが勧めていたので、読んだ。余談だけど、高野さんは今年から「辺境作家」と名乗るのをやめて「ノンフィクション作家」になったんだそうだ。なんか、違う気がする。

春風的柳昇は、戦争で手を負傷して、戦前に働いていた横河電機に務められなくなったので、仕方なく、落語家になったのだそうだ。復員してきてから、落語家となった話と、戦友との交流の話がこの本には載っている。本当は、その前に二冊ほど、戦中の話の本があるらしく、しかも、映画化までされたという。知らなかったなあ。

戦争の話がたくさん出てくるが、批判も賛美もしていない。そして、悲惨な話も乾いた文体でさらりと流れていく。最後を看取った戦友の思い出話を遺族にする話も幾つも出てくるが、それすらまるで落語の一説のようにスラスラと流れていく。

けれど、戦前に、働きながら楽団でトロンボーンを吹いた話、指導者が出征して行って帰らなかった話などは、思いがけない濃度で描かれている。子ども時代の思い出は、強い色彩で、深い思いを込めて書かれている。

戦後の生活は、彼にとっておまけの人生のようなものだったのかもしれない。あらゆる悲惨も快楽も、夢のように過ぎてしまったのかもしれない。そして、そんなふうにちょっと離れたところから全てを見ている彼の落語は、だからこそ面白かったのだろうなあ、と思う。

最後に事務連絡です。
最近、正体不明のコメントがやたらとつくので、しばらくコメントを承認制にします。コメントいただいてもすぐに画面に反映されませんが、必ず読んでアップしますので、ご了承ください。
あんまりこういう方式は取りたくなかったんだけどなあ・・・。

2012/1/11