お前なんかもう死んでいる

お前なんかもう死んでいる

2021年7月24日

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『お前なんかもう死んでいるプロ一発屋に学ぶ「生き残りの法則50」
有吉弘行 双葉文庫

有吉との付き合い(?)は結構古くて、彼らがまだヒッチハイクの旅の途中のころ、オンタイムで私は「猿岩石日記」を読んでいた。あのころの有吉は何にもできない駄目な兄ちゃんで、相方の森脇に迷惑ばかりかけていた。すぐに音を上げて、酒に溺れて、愚痴ばかり言って、日記も誤字だらけで。でも、日記は面白かった。思いもよらない場所に放り込まれて、必死で生きている姿がちゃんと伝わってきた。経験の力ってすごい、と思った。

彼らが帰国してとんでもないフィーバーになり、スターダムにのし上がった時も、自信が無さそうで、受け答えも下手で、ひとつも面白くなくて、あーあ、いずれ消えていくんだな、と痛々しい思いで見ていた。そして、本当にそうなった。

でも、たまに彼らを見かけることもあった。何の番組だったか、まだコンビだったころ、「大丈夫です、仕事はあるんです。CSのある時代でよかったと思っています」と有吉が言っているのを聞いたことがある。うちはCSと契約していないので、そうか、あいつらはCSで活躍しているのか、なんて思っていた。でも、それって、単なる見栄だったのね。

仕事が一個も無くなってからの数年間を、有吉は、猿岩石ブレイク中にためた貯金を取り崩しながら生きていた。結構な金額が溜まっていたから、それで長いことやっていけたらしい。一日250円で過ごしていたっていうから、ずいぶん保ったよね。貯金が100万円を切った時に、強い危機感に囚われたという。この辺りの話は、実にリアルだ。99万じゃ駄目、三桁無くちゃ、と痛切に思ったという。

若い子が芸能界で手痛い目にあって、立ち直れない姿を、私達は時々目にする。本当に気の毒だけれど、そういう世界でもあるよね。有吉も、ローゼ(ノイローゼのことを、彼はこう呼ぶ)になったという。でも、それをローゼと読んで、自分を客観的に見るようにした、そのことが彼を救っていたのだろう。お金がたくさんある時にパーッと使ったりしない、家賃の高いところにも引っ越さない、そういう貧乏性ともいえる堅実さが、彼を支えたのだろう。

復活してきた有吉は、大人になっていた。成長したなあ、と思う。ネガティブで、お金しか信じなくて、夢も希望も無駄だと言い切っているけれど、そして、本人は本気でそう思っているんだろうけれど、いや、ずいぶんおとなになったよ、有吉くん。あの頃のダメダメな若者を思うと、隔世の感がある。今度はきっと大丈夫。今のブレイクぶりはちょっと行っちゃってるけど、中堅どころで、ずっとやっていけるよ、これからは。

なんて偉そうに思いたくなっちゃう本だ。でも、これって昔の猿岩石日記から読み始めたほうがずっと面白いと思うけどなあ。もう絶版なんだろうか、あの本。

2013/2/14