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「おまえさん 上・下」 宮部みゆき 講談社文庫
どうやら単行本と同時に文庫本も売りだしたらしい。色んなことやるなー、宮部さん。もう、なんだってできちゃうだろうな。
厚い本が二冊。でも、宮部みゆきだもの、すぐ読めちゃうわ、と思ったけれど、意外に時間がかかった。風呂敷広げすぎだもの。どこまで行って、どこから戻ってきて、どこへ行くのか、時々迷子になっちゃう。
宮部さんは、広い広い世界を全部自分のものにしようと思っているのかなあ。
世界には、いろんな人がいて、それぞれに自分の思いや人との関わりを持っている。それをできる限り手を広げて、かき集めて、みんな言いたくなっちゃっているのかなあ。
宮部みゆきの現代モノの小説をあんまり楽しめなくなっていた。それは、宮部さんが許せないと思っているものに対する気持ちが、あまりにもリアルに伝わってくるからじゃないかと思っていた。
この本を読んだら、時代物でも、やっぱり許せない気持ちが、ひしひし伝わってしまって、なんだか怖いなあ、と思ってしまった。
登場人物一人ひとりに、誠実というか公平というか、正しさを決め付けるような視点をできるだけ避けて描こうとしている姿勢が、彼女には基本的にあると思う。だけど、それでも、どこかで許せないと思っていることが、明らかに伝わってしまうのだ。
おでこちゃんを捨てたひどいおかあさんだって、どこかで許されている。恋に迷って、してはいけないことをしたお役人だって、あたたかく見守られている。だけど、その一方で、見せ場を作り、本当はしっかりした人なんだとフォローされた女性を、実は宮部さんは許してない、と思ってしまう。世間知らずのお嬢さんをも、どこかで冷たく突き放している。
宮部さんの人間観察には、ゾクリとするような鋭さを感じる。そこにあるのは、温かい眼差しだけではない。時々、どうしても許せないものが混じっている。それが怖いと思ってしまうのは、私の中にも、許されない何ものかがあるからなのかもしれない。
2011/11/3