損したくないニッポン人

損したくないニッポン人

2021年7月24日

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「損したくないニッポン人」高橋秀実 講談社現代新書

「弱くても勝てます」「男は邪魔!」の高橋秀実である。この人の視点と発想は独特で面白い。基本、膝の力が抜けていて、「こうあるべき」みたいな肩肘張ったところがない。そして、やや貧乏くさい。今回も、その路線そのままである。

どうやら私は高橋秀実氏と似ているらしい。書いてあることにいちいち共感しながら読んでしまった。例えば、彼は奥さんに買い物を頼まれると「あるじゃん」とすぐにいうのだそうだ。なんか甘いモノ買ってきて、と言われると、でも、家にお菓子があるじゃん、と答える。あったとしても、もっといろいろ違うものがあると楽しいじゃないの、というのが奥さんの主張だ。そういえば、私もなにか買おうとするたびに、「あるじゃん」と思ってやめてしまう。あるいは、今、それがなくても別に困っていないのだから、買わなくてもいいじゃん、とも思う。買えないのは貧乏だが、買えるのに損したくないから買わないのは貧乏くさい、と高橋秀実の奥さんは言う。となると、高橋秀実も私も、かなり貧乏くさい。

私は、基本的に物を買うのは好きではない。さらに、投資などにも興味はない。これをすれば確実に儲かりますよ、と言われても、なかなか手を出さない。なぜなら、面倒だからだ。労力を損したくないというべきかもしれない。「何もしないこと」が好きなのかもしれない。

ブランドショップなどで、よく、信じられないくらいものすごく高いバッグが飾られていることがある。この本によると、あれは、売るために置かれているのではない。素晴らしい商品だけれど、こんな値段、手が出るわけがない、と思って見る客が、それよりは値段の低いバッグを見て、これなら買えるわ、と思うためにおいてあるのだそうだ。つまり、比較したら安く感じてついつい買ってしまうためなのである。

が、この戦法も私には意味が無い。かつて私はミキモト真珠島へ行って、その展示場で数々の素晴らしい、とんでもない額の真珠の宝飾品を見た。最後に売店があって、そこでは、今見たものよりはずっとお安い、でも立派な真珠のアクセサリーが売られていた。そして、飛ぶように売れていた。が、私は思ったのだ。あんなにすごい宝飾品に比べたら、こんなちっぽけな真珠、クズみたいなもんだわ。こんなもの持っててもつまんない、と。で、結局何一つ買わなかった。

この本には、ポイントを貯めることに生きがいを感じて、これを買うとポイントが沢山もらえるから、とたっぷり買い物をしてしまう人や、節電に熱中していて、自分がどれくらい節電できているかを確かめるために、何万円もする消費電力計量計を買う人が登場する。それって本当に得なのか?

不動産の価格の決め方も載っている。これはなかなか興味深い。十年以上の単位で不動産の購入を検討だけし続けている我が家にとっては他人事ではない。結局のところ、不動産の価格などは気合と阿吽の呼吸だけで決まる・・・・ってなんだか膝の力が抜ける。

得ってなんなんだ、損ってなんなんだ、とむしろわからなくなってくる。私は随分と貧乏くさい人間だ、とわかったが、これを変えようとはあんまり思わない。そんな結論に達した本であった。

2015/12/18