弱くても勝てます

2021年7月24日

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「弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー 高橋秀実 新潮社

「ご先祖様はどちら様」
「おすもうさん」の高橋秀実さんの新作。誰もが知っているあの名門進学校開成高校の硬式野球部が甲子園に出場するまでの道のりを記録しようとした本だ。まだ出場には至っていないけれど、そのうち実現しそう・・・と高橋さんは書いている。

甲子園常連高校の野球部は、小さい頃からシニアチームで野球を叩きこまれた特別な選手たちのいる異常な世界。それに勝つには、一般的なセオリーではいけない、というのが開成高校野球部のやり方。

確実に一点とっても、何しろ守備が下手だから、その裏の攻撃でまたたく間に挽回されてしまう。だから、エラーをするのは必然と考えて、そのかわり、思い切りバットを振って、とにかく勢いに任せて点を取り、どさくさに紛れて点を重ねる戦法を取る。相手は最初から舐めてかかっているから、大量得点をされると動揺して、意外にも勝ててしまう場合がある。そのどさくさ戦法で、開成高校は都大会でベスト16にまで進み、しかもそこで負けた相手の国士舘高校が甲子園入りを果たしたので、もしかして、そこで勝っていたら、甲子園にも行けちゃったのかもしれないのだ!

開成高校野球部のポジション決めは以下のとおり。

ピッチャー/投げ方が安定している。
内野手/そこそこ投げ方が安定している。
外野手/それ以外。

ピッチャーは、相手を抑えるとな打ちにくい玉を投げるとかではなく、あくまでも安定的にストライクゾーンに投げられることが重視される。というのも、ストライクゾーンにはいらないことには、試合にならないから、なのである。ピッチャーは、まず、野球を成り立たせるというマナーを守るために存在しているのだ。

練習は週に一回。後は各自の自主練習。しかも、試験前に習慣は練習なし。みんな塾に通ったりもしているし、練習も実にのんびりしている。甲子園を目指す野球部としては信じられない体制だ。というか、甲子園に行きたいか?と尋ねると、「行けるものなら、行きたい」とみなさん冷静である。行けそうにないという現実をちゃんと把握してらっしゃる。

一人ひとりの選手へのインタビューがなかなか面白い。野球野郎とは思えない回答がいちいち返ってきて、笑ってしまう。

神奈川の名門聖光学院中学に在籍していたのに、攻撃的な野球がしたくて開成高校を受験して入ってきたという子が登場して、驚いてしまう。彼は、本気でプロを、しかも大リーガーを目指しているのだ!!東大野球部に入れば、そこそこでも目立つだろうという彼の目算はすごい。本当に彼が大リーガーにまで成長するのかどうか、後を追いたい気分だ。

2013/3/4