おまじない

おまじない

118 西加奈子 ちくま文庫

西加奈子はいいなあ。心のどこかに引っかかっていた、ちょっとした小さなことを掬い取って言葉にしてくれる。そうすると、それは実は小さなことではなかったのだな、と後で気が付いたりもする。

お母さんの望みどおりの子どもであろうとしたけれど、それは難しい。焼却炉のおじさんが「あなたは、悪くないんです。」と言ってくれた。そうしたら目から何かがだらだら流れた。それだけの話なのに。読みながら、小さいころからあったいろんな出来事が思い出されて、あんなこともあった、あの時、私にも誰かが「あなたは悪くないんです。」と言ってくれたらよかったなあ、なんて思えて、私の目からも何かがじわっと出てきそうだ。

いちごだけがすべてで、いちごを中心に世界が回っている浮きちゃん。世間の評価も、かわいらしさも、正しさも、いちごほどには大事ではない。そして、会いに行くと「食えっ!」と死ぬほどいちごをくれる。自分にとって大事なものが何か、がものすごくしっかりはっきりしてることの清々しさ。自分にとって、一番大事なもの。それさえあれば、もう人は生きていけるのかもしれない。

そんないくつもの短編があって、それぞれがひとつずつ、心を励ましてくれるおまじないをくれる。誰かのためでなく、ほかならぬ自分自身のためのもの。私は私だと思える本。いい一冊だった。