がんばりません そうはいかない

がんばりません そうはいかない

2021年7月24日

「がんばりません」   佐野洋子  新潮文庫     63

ずいぶん昔に読んだ本を引っ張り出してきて、ちょっとした時間を見つけては、すこしずつ読んだ。

佐野さん、若かったなあ。読んだときは、私も若かったから、気がつかなかったけど。まだ、シャキシャキしてるじゃない。

絵本作家なんて、夢があって素敵なお仕事ね、なんて言われて、ピンクのフリフリのドレス着ているみたいに思う人もいるかもしれないけど、実はありふれた散文的な人間が現実的に生きてきたんである、と突きつけるように、これみよがしに、ありのままに書かれている。

「子供」という、たった二ページだけのエッセイがあって、もう、全文ここに引用しちゃいたいくらい、やられてしまった。最後の啖呵だけ、引用するね。

 私は思ってしまう、世の中に子供なんかいない、子供のふりをしている大人がいるだけだ。子供のふりして子供の権威を振り回すな。私だって母親のふりするの大変なんだからね。
私だって十三歳の少女だったことあるんだからね。

(「がんばりません」佐野洋子 より引用)

この本の文庫版には、おすぎが解説を書いている。おすぎは、「老嬢は今日も上機嫌」にも解説を書いていた。おすぎが仲良しな女の人は、私、みんな好きだ。だから私もおすぎと仲良しになれそうな気がする。でも、ファッションチェックで、はねられるかな。

おすぎが好きだった男の人、佐野さんとお友達だったんだって。そういえば、昔、谷川さんとの対談講演を聞きに行ったら、佐野さん、本当はおすぎと対談したかった、って言って、谷川さんが「僕はオカマの代わりなんですか」と、残念そうに言ってたなあ。

「そうはいかない」   佐野洋子 小学館  64

ところが、この本は、もう佐野さん、中年なのである。中年の私には、とってもよくわかる。

中年女って大変なのよ。子どもを大人に育て上げる最後の正念場だし、親たちは介護が必要になってくるし、世の中じゃ甘やかしてくれないし、自分の気力体力はどんどん衰えてくるし、金はかかるし忙しいし。

谷川さんと別れる前だからなあ。息子が、役にも立たない外車を買ってイライラしてるのに、夫がそれに目を輝かしたりして、佐野さん、大変だあ。お母さんを引きとって、同じことを何回も何回も話したり、バスの中で「ハジメテクチビルヲユルシタノハ」なんて話を大声でされたりしてる。

 思い出せないセーラー服の青春なんかどうでもいいんだ。こたつにドタっと座って明るくお寿司を食べて、太ったり、顔中皺だらけにしたりしている女たち。みんなの三十年の人生は、十八の時の顔が思い出せなくても、そんなことは問題じゃないほど、堂々と進んでいく船みたい。

(「そうはいかない」 佐野洋子 より引用)

佐野さんは、いい。正直で、本当のことしか書かない。権威なんて、屁でもない。みっともなく、かっこ悪く、でも、頑張って突き進む中年女たちを明るく、強く、認めてくれる。この人を読むたびに、私は元気が出る。色んなことを振りきって、今日も明日も、とにかく生きて行くんだと前を向ける。死ぬまでかっこ良かったなあ、佐野さん。

2011/7/3