すべての月、すべての年

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106 ルシア・ベルリン 講談社

「掃除婦のための手引書」以来のルシア・ベルリン。翻訳はもちろん岸本佐知子さん。短編が19編収録されている。どれも素晴らしい。

先日読んだエリザベス・ストラウトの「オリーヴ・キタリッジの生活」とテイストが似ている。オリーヴの方は、海辺の田舎、誰が何をやったかみんな知っているような小さな町の中年女性の孤独が描かれていたけれど、ルシア・ベルリンはもっと都会的な中年情勢の孤独が浮き彫りにされている。根底にあるものは同じなのかもしれない。

ルシアの短編のすばらしさは、人生のある一時期を切り取って見せるだけなのに、登場人物が極めてリアルで生き生きとしていること。深い孤独が胸に切り込むように迫ること。石井光太のノンフィクションを読んでいるような悲惨な人生もあれば、お金に困らない、でも何も思い通りにはならない人生も描かれる。だが、どれもがルシアその人を描き出している。

何を描いても、恋をすること、妊娠すること、子どもを産み育てることの美しさ、苦しさ、どうしようもなさがじわじわと湧き出てあふれる。中年女性ってそういうことか!と思い知る。孤独。でも、人生は美しい、切ない、いとおしい。

私小説とはこういうものだよな、と思う。めそめそと自分がどんなにダメな人間かをデカダンスに描く人たちよ、ルシア・ベルリンを見習えよ!!といいたい。

寡作な人だったという。もう、これ以上は読めないのだろうか。だとしたら、とても残念。