ももんがあ からっ風作戦

ももんがあ からっ風作戦

2021年7月24日

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「ももんがあ からっ風作戦」 椎名誠 文春文庫

その昔、私は雑誌が好きだった。週刊、月刊、季刊あわせて十冊近く購読している時代があった。どれも個性があって、読むのが楽しみだった。

週刊文春も、毎週読んでいた。ナンシー関がいたし、椎名誠もいたからね。私が雑誌を読まなくなった理由の一つは、ナンシー関が死んだことにある。

この本は、椎名誠の週刊文春の連載をまとめたものだ。以前、週刊誌を読んでいた頃は、わざわざ本になってから読もうとは思わなかったけれど、読まなくなってかなり年月が経ったので、久しぶりに読むと、懐かしいような相変わらずのような。それでも、椎名さんも、年を取りましたなあ。

椎名誠は、よくホームレスに間違われるらしい。色は黒いし、髪はボサボサだし、ビーチサンダルを履いて、ビニル袋をぶら下げて歩いていたりするからだ。広島のテレビに出演しに行って、時間まで暇つぶしに公園でぼんやりしていたら、ホームレスに仕事を斡旋する老人に声をかけられたエピソードが載っていた。

「仕事どう。ぼちぼちかい」
老人は言った。そうだなあ、あわただしいだけで実績はぼちぼちだろうなあ、と思ったので「ええ、まあ」と答えた。
「今日は休みかい」
まあ休みみたいなものだろう。
「ええ、まあ」
「仕事まいんちやってるの?」
毎日というわけでもないなあと思ったので「いや、時々ですかね」。
「家族いるの?」
一応いるけど半分は外国に住んでいてここんとこだいぶ会ってないから一家離散状態だなあ。
なんとなく遠い目になってしまう。
「うちはガラ出しが多いんだけど一日七千四百円だよ。住み込みもできる。いま十六人面倒見てるんだ」
老人は言った。

(引用は「ももんがあからっ風作戦」椎名誠 より)

東京でも同じように声をかけられたことがあって、その時は八千五百円だったそうだ。真に迫って、ホームレスっぽいのだろうなあ。

椎名誠は、そうやって間違われることが、嫌いではないようだ。
だろうなあ、と思う。
本の売れ行きから考えて、とんでもないお金持ちじゃないかと思われるのだけれど、この人は、基本、心はホームレスに近いと思われる。そういうところは、いいなあ、と思う。

2012/1/21