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「あぐり 95年の奇跡」 吉行あぐり 集英社
NHKの朝ドラ「あぐり」は珍しくちゃんと見ていた。野村萬斎さまのファンだということもあった。毎日見ているのに、あぐりという人も、エイスケという人も、何だかよくわからないままに終わってしまった。
「老嬢は今日も上機嫌」を読んで、少しだけ、あぐりという人がわかるような気がした。風に吹かれたら、風のままに体を任せる、けれど、どこかでしっかりと地に根付いていて、吹き飛ばされることはない。そんな人なのかもしれない、と思った。
この本は、吉行あぐりの文章に吉行和子が最後に少しだけ書き添えをしている。その二つをもって、親子のあり方がじわじわと伝わってくる。互いに、干渉しすぎない、でも、信頼と愛情はかけあっている、自由な関係性が見えてくるのだ。
あぐりは、なんで勝手気ままなエイスケを許していたのかな、なんてドラマ放映当時、私は思っていた。でも、許されていたのはエイスケだけじゃない。あぐりもまた、許され、助けられていたのだ。夫婦だものね、そんなの当たり前なのに、そこんとこが私はわからなかったのだ。若かったのかなあ。
あぐりは、とんでもなく若くして淳之介を生んだ。歳の差は、16、7といったところだ。戦時中に二人で歩いていて、親子だと言っても信じてもらえずに憲兵に叱責されたこともあるという。たぶん、あぐりにとって、淳之介は、半分恋人のような部分もあったのだろう。先に死なれて、どんなに辛かったことだろう。
疑問に思わないことが、彼女の長寿の秘訣、と吉行和子は書いている。そうなのか。何でもかんでも、「なんで?」「なぜ?」と思ってしまう私は、もしかして、あんまり長生きできないのかも。うーん、もっと、風に吹かれるしなやかさが必要だなあ。
2011/9/4