わたしが外人だったころ

わたしが外人だったころ

2021年7月24日

61

「わたしが外人だったころ」鶴見俊輔 文 佐々木マキ 絵

福音館書店

鶴見俊輔の「戦争が遺したもの」のエッセンスが集められたような絵本。

絵本としてはどうなんだろう。予備知識無しで、ここに書かれた内容を十分に理解できる子どもはいるんだろうか、とやや疑問になる。が、何かを受け取ることはある。少なくとも、ある一人の人間が、戦争前後にアメリカと日本の間で、自分が外人であり続けたとはどういうことか、を考える子はきっと出てくる。それだけでもこの本に意味はあるのかもしれない。

アメリカと戦っている国の人だけを入れる移民局の留置場で、夜、便器を机に卒論を書き、日本へ帰る交換船の上でハーヴァード大学を卒業した筆者。同級生だったアメリカ人に「これから憎みあうことになると思う。しかし、それをこえて、わたしたちのつながりが生きのびることを祈る」(引用は「わたしが外人だったころ」より)と言われたけれど、日本に戻ってからもアメリカを憎めなかった筆者。彼は戦争中、日本の中でずっと自分は外人であると感じていたのだ。日本は負けると最初からわかっていて、ただ、負けるときには日本にいたいと思って帰ってきただけで。この思いは、ずっと筆者の心の底にある。アメリカにいるときは外人で、日本に帰っても外人。

国という概念を超えた、人と人とのつながり、人のあり方。この本を書いた時、鶴見氏はもう老境にあった。いま子どもたちに伝えたい、と思ったことを、この老思想家は、できるだけ平明に書こうとしたのだろう。その思いを受け取る子どもがもしいるとしたら、この絵本から出発して、たくさんの歴史を学んで欲しい。そして、気がついて欲しい。私たちも、世界のなかの外人なのだ、と。

2015/8/24