ウツぬけ

ウツぬけ

2021年7月24日

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ウツぬけ うつトンネルを抜けた人たち」田中圭一 角川書店

 

うつの人は、案外、多い。うつ病と診断されていなくても、なんとなくウツっぽい人も含めると、驚くほどたくさんいる。私自身も数年前、どんよりとした苦しみの中から脱出できなくて、心療内科を受診して薬をもらった経験がある。幸い、今は大丈夫だけどね。
 
この本は、うつを経験した人が、どのようにそこを抜けたか、あるいは抜けたり抜けなかったりしながらどのようにやり過ごしているか、を調べて描いた漫画である。作者本人だけでなく、大槻ケンヂとか、まついなつきとか、内田樹とか、一色伸幸とか、結構なビッグネームがうつを通り抜けた経験を語っていて興味深い。
 
うつの原因は様々だし、その脱出法も様々である。作者は医者ではないから「こうすればいいよ」とは言えない代わりに、脱出に成功した人を取材してたくさんレポートすることで、苦しんでいる人が出口を見つける手助けになればいいと思っているそうである。たしかに、何らかのヒントにはなりそうな本ではあった。
 
すごく瑣末なことだけど、激しい気温差がうつの引き金になる、という指摘にはハッとした。私は、雨が降り出しそうな朝や、台風が近づいている日など、ひどくどんよりしてしまう。いつもなら数十分で片付く家事が半日たっても終わらないことすらある。でも、そういうときは、「ああ、今日は雨がふるからなあ」「台風が来るから仕方ない」と思うことにして、自分を怠け者だと断罪しないようにしている。自分を駄目だと思いこむと、どこまでも気持ちが落ち込んでしまうのを経験して学習したからだ。最近じゃ、雨で調子悪いと、「ああ、しょうがない、しょうがない」と言いながら、ほくほくと怠けている。それも困ったもんだが。
 
気温差だけでなく、様々なちっちゃなことが、それぞれのスイッチになったり引き金になったりすることが描かれている。ある人にとって、背中を押し、スッキリさせることが、ある人にとっては辛いことにもなる。うつといっても様々である。
 
いずれにせよ、様々な症例を見ている内に、なんとかなるかもな、と思えてくる。それは、私が割にいま、健康で、お気楽だから言えることなのかもしれないが。いま、うつうつと思い悩んでいる人にこれを渡したら、喜んでもらえるのかな。それとも、余計なお世話だ、と怒られてしまうのだろうか。どっちもありそうな気がする。判断が難しいなあ。

2017/8/1