ゼロから分かるキリスト教

2021年7月24日

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「ゼロからわかるキリスト教」佐藤優 新潮社

クリスチャンホームに生まれながら、信者になることを拒絶した私である。キリスト教関連の本は「ふしぎなキリスト教」以来である。

著者はキリスト教徒であり、同志社大学神学部を卒業している。が、実は高校時代はマルクス主義に触れて無神論者になることを志し、神学部にも入ったのも、無神論を本格的に勉強したいという知的関心を満たすためだった。国内の神学部で同志社大学だけが唯一、キリスト教の洗礼を受けていることが条件となっていなかったので受験したという。面接で無神論を勉強したいというと、フォイエルバッハやマルクスの研究をしている人が何人もいるし関連書籍もたくさんあるので他大学に合格したとしてもうちに来てほしいと言われたとか。同志社大学って、懐が深い。結局、著者は大学一回生のクリスマスに洗礼を受けたという。だが、なぜそうなったかを言葉で説明してはいない。自然にそうなったにすぎず、洗礼にも大した意味を感じてはいないと断言している。本来、宗教とはそういうものなのかもしない。

この本は題名とは裏腹に、実はそれほどキリスト教のことを書いていない。いや、書いているつもりなのかもしれないが、結局のところ、哲学とかあらゆる宗教とか、国際情勢とか、勉強する、学問するとはどういうことかとか、そういった根源的なことを書こうとしているように感じる。「ヘーゲル法哲学批判序説」を数行ずつゆっくりと読み解きながら、それにまつわるあらゆることを説いている。ややこしく小難しい文章から様々な理論が世界が広がるのが面白い。

面白いと書いたが、実は最初三分の一程度読み進んだところで頓挫している。その間に夫が先に読んで、結構面白かったよ、と言うので残りを読む気になった。キリスト教のみならずあらゆる哲学、イスラム教やユダヤ教の歴史なども紐解かれていて、一つ一つ理解しながら読み進むのはなかなか面倒な部分もある。が、それを乗り越えてしまうと実に知的刺激に溢れた本である。

イスラム国がどのような経緯で生まれたのか、それをどう捉えればいいのか、テロ組織が誘拐に法外な身代金を要求する意味と彼らがもとめていること。それがこれからの世界にどのような意味を持っていくか。そんなことが実にわかりやすく書かれてもいる。

著者は口が悪い。世の名だたる学者たちも彼の手にかかると、人が悪い、性格が悪い、自分が世界で一番頭がいいと思っている、などと笑いを交えながら酷評される。彼はキリスト教徒でありながら、キリスト教そのものに対しても実に冷静で客観的な視点を持っている。賢さとはある種の余裕であり、それはユーモアにつながる。どんなことでも、そこから少し距離を持って立ち止まり、外側から眺め、時として笑ってしまう、そういう立ち位置を持ってこそ、本当に理解することへ近づいていけるのだと改めて思う。

クリスチャンホームに生まれ、幼い頃から教会に通い、マルクスに出会って宗教に疑問を感じるあたりまでは似たような環境に育った私である。私はそのまま宗教から離れた生活をし、著者は宗教というものを徹底的に勉強することで信者となることを選んだ。そのあたりの差異に興味があった。がそんなことを遥かに超えて、興味深い本であった。

2017/4/9