バッタを倒しにアフリカへ

バッタを倒しにアフリカへ

2021年7月24日

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「バッタを倒しにアフリカへ」前野ウルド浩太郎 光文社新書

 

「今日、会社へ行くの憂鬱だなあ、と思ってたんだけど、この本を読んだらなんだか元気が出たんだよ。」と夫が言った。会社に行くのが憂鬱、というのも心配だが、それを吹き飛ばす面白さの本のほうがもっと気になる私。早速読んでみたら、おお、面白い。私も私でぐったり疲れることが次々襲い掛かってくる昨今なのだが、この本には勇気づけられたぞ。
 
作者はファーブルに憧れて昆虫学者になったポスドクの身分である。博士号は取得したが、まだ大学などで恒常的な就職を果たしていない、極めて不安定な状態にある研究者。何倍もの競争率を勝ち抜いて研究資金を得ないことには、すぐ無収入のどん底生活が待っている。
 
・・・これって、うちの息子も同じなんですよね。安倍政権は基礎的基幹的学問への予算をじゃんじゃん削ってしまったから、地道な研究を続ける学問を志す若者が、どんどん路頭に迷い、研究を諦めていく。目先だけの、いますぐ役に立つ学問しか目に入らない、頭の悪い総理大臣を持った国の惨めさをひしひしと思い知らされている。
 
なんて、身につまされながら読まざるをえない本だったのだけれど。作者はモーリタニアへバッタ研究のために単身飛び込んでいく。言葉も不自由だし、環境は過酷だし、おまけに大発生するはずのバッタが、その年に限って現れなかったりして。数々の不幸に見舞われながらも、がむしゃらにバッタ研究に励む作者。アフリカの人びととの交流、フランスでの束の間の日々。二年の期限が過ぎ、無収入となっても僅かな研究費を片手にモーリタニアで頑張る作者の姿は、人は好きなもののためならどこまでも頑張れる、楽しめる、ということを教えてくれる。そして、いつか道は開ける、とも。
 
うちの息子も困難な中で研究者を志して悪戦苦闘中である。みていてハラハラするし、それでどうやって食っていくんだい?といつも心配になる。が本当に好きなら、研究を続けたいのなら、きっと何とかなる、頑張れ、と改めて思う。親は祈るばかりである。
 
息子と重ね合わせて読んでしまった。前野ウルド浩太郎さん、頑張れ。ちなみに、「ウルド」とはモーリタニアで伝統的な名誉な名前である。彼は、それをバッタ研究所のババ所長から与えられ、大事に使い続けている。

2017/10/21