熊を彫る人

熊を彫る人

2021年7月24日

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「熊を彫る人」写真・在本彌生 文・村岡俊也 小学館

「つづくで起こったこと」で皆川明と対談した写真家の在本彌生による写真集。木彫りの熊の彫刻家、藤戸竹喜の仕事の記録である。

北海道みやげとして有名な民芸品、木彫りの熊は、スイスの土産物を見本として作られたと言われているが、それ以前にも素朴な形では存在していた。そこから派生して、スイスの見本をもとに現在の形へと進化していったものである。藤戸竹喜は父親に仕込まれ、友人の砂澤ビッキとともに木彫りの熊のみならず、キツツキ文様のペンダントや狼像や観音像なども彫り上げていった。一時期、彼は札幌の丸井今井と契約し、デパートの一角で彫っていたという。私は一時期、父の転勤で札幌に住んでいたのだが、その頃と時期が一致するような気がする。なので、この人を幼い私は見ていた、のかもしれない。

木彫りの熊も藤戸竹喜も、北海道の美しい自然も、写真の中に生き生きと息づいている。まるで生きているかのような木彫りの熊の表情に、はっと胸を打たれる。

今は阿寒湖の辺りに居を構えるという藤戸竹喜に、一度会いに行ってみたいとふと思う。邪魔などせず、そっと遠くから熊を彫る姿を見てみたい。

2020/11/16