人間の樹

2021年7月24日

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「人の樹」村田喜代子 潮出版社

「焼野まで」以来の村田喜代子さんである。この人の書くものはすべて読みたい。よだれを垂らして待つ思いである。

村田さんがすごいのは、平然として突拍子もない想像の世界がどわーっと広がるところだ。極めて冷静に、ごく普通に、いきなりのまったく普通じゃない世界。

今回は18編の短編全ての主人公が樹である。サバンナのアカシヤ。センダン科のハーブの樹、ニーム。糸杉。バオバブ。ヨーロッパナラにポプラ、リラ、カラマツ・・・。樹は大地に根を下ろし、動かない。動かずに生きていけるのは優れているからだ。人間は、卑しくちょこちょこと動かないと生きていけない。そんな人間のお弔いに樹が訪れたり、人間と結婚したり、あるいは夫がある日、前世は樹だったと告白したり。どの樹も力強く、感情深く、生を見つめている。時の流れを見通している。世界中のいろいろな場所で、樹が静かに人間を見据えている。

これを読みながら、たまたまだが、浜離宮に行った。浜離宮の見事な松が、さらさらと私に話しかけてくるような気がした。樹という樹が、今までと違って見えてきた。

村田喜代子、やっぱりすごい。

2017/3/13