ヨーコさんの”言葉”

ヨーコさんの”言葉”

2021年7月24日

11「ヨーコさんの”言葉”」佐野洋子文 北村裕花絵 講談社

12「ヨーコさんの”言葉”それが何ぼのことだ」佐野洋子文 北村裕花絵 講談社

こんな本が出ていたとはしらなんだ。NHKで佐野洋子さんの言葉を取り上げて番組にしていたそうで、それが大人のための絵本になった。最初は「二番煎じか?」と警戒していたが、さすが佐野洋子さんである。実に味わい深い絵本になっている。

一冊目の最初の「才能ってものね」で既に打ちのめされる。以前に絶対オリジナルで読んでいるはずなんだが。こどもを水泳教室に連れて行くだけで、特別に出来ること、特別にできない子がいることを見つける。その間に凡庸という集団がぞろりと存在する。

そして、凡庸は凡庸な努力をシコシコと重ねて、人並みというものにかろうじてしがみつく。凡庸は凡庸と競争し、その中の喜びも悲しみも生きてゆくのである。(中略)
私はプールのガラス越しに、水を盛大にとび散らしている必死の形相の男に、「一つや二つ特別に才能なくても、どうにか生きていこうぜ。三つや四つ凡庸ってものにもありつけるわよと、見えないメッセージを送った。
            (「ヨーコさんの”言葉”」佐野洋子より)

凡庸というもののありがたさをしみじみと感じる私である。特別な才能なんて無くてもいい、幾つかの凡庸を大事に抱えて生きていこうと心から思う私である。佐野さんは本当になんでもない顔をして、すごいことを言ってのける。その深さ、鋭さ、強さ、温かさにいつも私は驚かされる。知っていたはずの言葉でさえ、読み返すたびに打ちのめされる。

また、絵がいい。佐野さんを邪魔しない。そして、もっと深めて見せる。この人は、佐野さんを理解して、愛しているのだと伝わってくる。

もう一冊あるんだって。それも読まなくちゃ。

2017/4/21