人間の土地へ

人間の土地へ

26 小松由佳 集英社インターナショナル

日本人女性で初めてK2というエベレストの次に高い山に登頂した作者が、フォトグラファーとしてシリアに通ううちにラクダを飼う青年と愛し合うようになる。だが、そこには文化や宗教の違いがあり、さらには非情な内戦が待ち構えていた。一度は徴兵された青年は、政府側に立って仲間に銃を向けるわけにはいかない、と脱走する。様々な苦難を経て、二人はついに結婚するのだが・・・。

シリアという場所の美しさ、そこで暮らす人たちの温かさ、豊かな文化をしみじみと味わう。そのあとで起きる内戦のひどさ、難民となることの苦しみ哀しみが肌身を通じて伝わってくる。日本に来たラドワン(作者の夫)が鬱に陥るのがとてもよくわかってしまった。広い砂漠で伸び伸びとした暮らしをしていた人間にとって、日本社会がどんなに息苦しいものか。

いつか彼らはシリアに帰れるのだろうか。同じ豊かな暮らしを取り戻せるのだろうか。人はなぜ、こんな風に無意味な争いを繰り返すのだろう。遠くの関係のない出来事と思っていたシリア内戦が他人事ではなくなる一冊。第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞作。