僕の人生には事件が起きない

僕の人生には事件が起きない

2021年7月24日

99

「僕の人生には事件が起きない」岩井勇気 新潮社

 

ラジオで作者の岩井勇気くんがゲスト出演されていて、興味を惹かれたので読んでみた。確かに事件は起きないなあ、と思った。
 
岩井勇気はハライチというコンビのボケである。ツッコミの澤部が突っ込みながらボケるので、どっちかというと、単に話題を提供する人と呼んだほうが正しいのかな、と思うが、ネタを作るのは岩井である。そして、彼らの笑いのパターンは、初めてみた時、非常に斬新なものであった。
 
天才的なネタを作る割に、岩井は地味である。澤部があまりにお笑い芸人としてフォルムが完成されているから、余計にそう感じるのだが、そのあたりは岩井自身が本書の中できちんと分析している。つまり、彼は自分の役割も的確に理解し、それを楽しんでいるのだろう。
 
岩井の発想は地味なところから広がる。漫才は、それが面白いし、澤部のツッコミはそれを見事に具現化する。が、活字は静かで穏やかにそこにいるだけなので、読者が澤部の代わりにあれこれ突っ込んで広げていくしかないのだな、と思う。それが結構面倒だ。逆に澤部の技術ってすごい、と思う。
 
あんかけスープを水筒に入れて持ち歩き、あちこちで飲む背徳感。わかるんだけどね。でも、それくらい、やるよなあ、とか思ってしまう。私にはそれ以上広げられないよな、と思ってしまう。読みながら、澤部を求める私。
 
良いコンビなのだろうと思う。活字よりは、漫才を、ネタを、見たい、と思った。

2020/10/14