認知症の9大法則50症状と対応策

認知症の9大法則50症状と対応策

2021年7月24日

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「認知症の9大法則50症状と対応策」杉山孝博 法研

米寿間近い父が、秋頃脳出血を発見された。実際にそれが起きたのがいつごろなのかは不明・・・というよくわからない状況だったが、そのあたりから、記憶の低下が起こり始めていた。非常に明晰に受け答えする人だったのが、たまに驚くようなことをいう。今さっき起きたばかりの出来事を覚えていなかったり、父のためにきてくれたケアマネさんが、なぜそこにいるのかが突然わからなくなったりする。視力が低下しているため、メモを残すということができないのが致命的である。思い出すきっかけを持てないのだ。かくて、父の認知症ははじまり、私は参考文献を探し始めたわけである。

認知症は9つの法則で理解できるという。

認知症は、ごく最近の記憶から失われる。
認知症の症状は、身近な人に対してより強く出る。
自分にとって不利なことは認めない傾向にある。
症状が進行しても、しっかりした部分は残っている。
出来事は忘れても、感情は残る。
一つのことにこだわりが強くなる。
強い対応をすると、強い反応が返ってくる。
相手の立場にたてば、大抵のことは理解できる。
認知症の人は、そうでない人に比して2~3倍のスピードで老化が進む。

そして、それに対して、介護者の持つべき法則はただ一つ。

認知症の人が築いている世界を理解し、尊重しましょう。

である。

父は真面目で頑固で正直で自分がルールの人であった。私との間にもたくさんの確執があったと言わざるをえない。だが、その心の奥底は、弱くて臆病で不安で心配症で、辛い思いやきびしい経験が潜んでいた。父の中に積み重ねられた精神が徐々に崩落する過程において、思いもよらないものが漏れ出し、溢れ出した。それは切ないものであり、かつ、命の愛おしさに満ちたものでもあった。生きるとはこういうものなのか、という驚きと発見もあった。もちろん、それ以上に困惑と疲労感と先行きへの不安があったことは間違いないのだが。

直接的に日々父を介護するのは、これまた老いた母である。父は、一日中同じことにこだわり続け、母はそれに振り回され続けている。また、父は、デイサービスに行ってこんなひどい待遇を受けたと現実と全く違うことをいう。それが実際とは全く違っているということを受け入れ、受け止めることが母には困難である。母は父が正直者であり、一度も嘘をつかない人であったことを矜持としているからだ。私は、父と母の間に立ち、父は嘘をついているのではなく、忘れてしまうのだということを説明し続ける。私は、父のいう言葉にどのように訂正をかけながら受け止めていくかを手助けするくらいしかできない。そして、他人の手を借りることを潔しとしない二人に、福祉の力を借りることの必要性を説き、徐々にでも諦めることを知ってもらう努力を続けている。

父の持つ世界は、少しずつ違ってきている。そのことを、私は母にわかってもらわねばならない。そして、母をできるだけ尊重しながら、共倒れにならないように周囲を巻き込み、助けてもらいながら日々を過ごしていく方法を考えねばならない。

この本は、そのための助けのひとつになってくれる。だが、それは全てではない。ここに書かれているのはやはり一般論であって、父という人間とどう向き合うかは、やっぱり、母と、私と、父自身と、姉とで決めていくしかない。当たり前だけれど、本は役に立つけれど、参考資料のひとつにしかならないよなあ、と思ってしまった私である。求め過ぎなのはよく知っているけれど。

介護は難しい。

2016/12/29