動物翻訳家

2021年7月24日

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「動物翻訳家」片野ゆか 集英社

 

私は学校の嫌いな高校生であった。どうしても学校に行きたくない日、登校中に上野で途中下車して動物園に行くことがあった。ゴリラ舎の前で、延々とゴリラと向き合って時間を潰したこともある。先日、高校中退者のの伊集院光がラジオで同じようなことを言っていて笑ってしまった。彼の場合は、上野動物園の、滅多に動かないハシビロコウをいつ動くかずっと監視していたそうだ。そう言えば私もハシビロコウを見ていたこともあるぞ。動物園は、そんな学校忌避者の密かな受け入れ先でもあるらしい。
 
この本は、動物園の飼育員の話だ。本来、野生であるべき動物を動物園という囲われた場所に連れてきてしまったせめてもの罪滅ぼしに、少しでも彼らの気持ちを汲み、彼らにとって快適な環境を作り上げるため日々努力する飼育員たちの奮闘の記録である。動物の気持ちを、彼らの仕草や声から翻訳して読み取るのが彼らなのである。
 
作品の中にはペンギン、チンパンジー、アフリカハゲコウ、キリンが登場する。どのエピソードも興味深く、温かい。飼育員がどれだけ動物のために心を砕いているかがひしひしと伝わってくる。小さな動物園ばかり登場するけれど、どこも行きたくなる。
 
ちなみに作者は高野秀行さんの奥さんである。高野さんも珍獣の一種みたいなものだから、動物好きだから、結婚してあげたのかなあ。

2017/3/1