夜また夜の深い夜

2021年7月24日

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「夜また夜の深い夜」桐野夏生 幻冬舎

 

桐野夏生は意地悪だ。人の心の暗闇や恐ろしい部分をえぐりだす。この物語もそうだ。
 
幼い頃から海外を転々とし、本当の名前も、住んでいる場所も誰にも言ってはいけないと母親に言い含められて育てられた少女、マイコ。彼女は日本人なのだが、届けを出していないので国籍も持っていない。海外で生まれたらしく、日本の土地に降り立ったこともない。あちこちの小学校を転々としたが、その後は母親が気まぐれに教えてくれる時にしか勉強もしておらず、友達も持たず、常識も礼節も知らない。
 
そこに住んで四年目になったナポリが物語の舞台だ。マイコは、母とのいさかいをきっかけに、自分がなぜこんな境遇にいるのかを徐々に知っていく。彼女が社会に目を見開く道具になったのが、日本の漫画だ。ナポリのまんが喫茶で「花より男子」に出会ったのが始まり・・・というのが、妙にリアルで面白い。
 
エリス、アナというともに難民の友人を得て、彼女の世界は広がっていく。が、思わぬ展開が最後には待っている。
 
人の冷たさや勝手さを、桐野夏生はこれでもかと描き出す。恐ろしいし、辛いとも思うが、それを乗り越えるほどに面白く、引き込まれる。分厚い本だというのに、ぐいぐい読んでしまう。
 
同じように人の心の闇の部分ばかりを描きたがる湊かなえはどうしても嫌で、全く読む気がしないというのに。この二者の違いは何なのだろう。

2015/9/24