家族の勝手でしょ!

家族の勝手でしょ!

2021年7月24日

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「家族の勝手でしょ!写真274枚で見る食卓の喜劇岩村暢子 新潮社

私は割に料理が好きである。夫が食べることの好きな人なので、美味しく出来れば美味しいと喜んでくれるし、失敗すれば顔を曇らせはするものの、黙って食べてくれる辛抱強さもある。だから、食べ手に恵まれているということもあるのかもしれない。家族揃って食事をするのは人生の幸せの一つだと思っているので、できるだけみんなでワイワイと食べるようにしているし、美味しいだけでなく、健康にいいものをと心がけてもいる。でもまあ、そんなに特別なことをしているわけではなく、誰もがやっていることを私もやっているだけだ。

と思っていたのだが、この本を読むと、家庭の食卓というのはおっそろしいことになっているらしい。この本では決められた一週間の一日三食について毎回食卓に載ったものすべてを写真で撮影し、食材の入手経路、メニューの決定理由、作り方、食べた人、食べた時間などを記録してもらうという調査が行われている。4098食卓のうちの274枚が掲載されている。

次々と登場する写真からわかるのは、野菜が極端に少なく、出来合いのお惣菜やファーストフード、カップ麺、コンビニ弁当などが多用され、家族それぞれが勝手に食べる個食、勝手食、果てはお菓子を食べて済ませたり、子どもが食べずに寝たら「ラッキー」と放っておき、箸の持ち方など全く頓着しない主婦たちが多いこと、である。そして、「お父さんのいない日」は極端に手抜きになる。

・・・・確かに、この本が本当であるのなら、一体どうなっているんだ、と暗澹たる気持ちにならねばならない。だが、本当にそうなのか?と一方では私は思う。食器を洗いたくないから、パンはテーブルに直置きしたり、ラーメンは鍋ごと置いて、みんなで箸を突っ込んで食べたり、焼き魚は一匹を皆でつつきあうだけだったりって、そんなことが本当に一般的に多く行われている、とは私には到底思えない。野菜は給食で食べているからうちでは買ってまで、わざわざ料理してまで食べなくてもいい、といいきる母親がそんなにたくさんいるとも思えない。朝ごはんはアメを舐めさせればいい、ショートケーキを食べればいい、と考える主婦がそんなにいるのか?私には信じられない。

なるほど、写真がある。確かに、そういう傾向はあるのかもしれない。だが、私の知っている母親たちは、総じて子どもの栄養状態に気を配り、野菜の高さに文句を言いながらも上手に買い物をし、健康によい食生活を送れるように心を配っている。子どもが幼い頃には、箸が上手に使えるようになるにはどうしたら良いかと知恵を出し合ったりもしている。転勤族である私はいろいろな地域で子どもを育てている母親たちと関わりあってきたが、どこへ行っても、そういう人たちが、ごく普通にいた。それが演技や上辺のものだけだったとは、とても思えないのだ。

写真に添えられた作者の文章には、そこはかとない悪意が見え隠れする。

 1週間の間に主婦が作ったのは夕食3回分だけだ。聞けば「基本的に私は食べることに興味がないし、外で食べるのはいいけど、家族のために食べないかもしれないものを私が一生懸命作るのは頭に来るからできない」「結婚以来、私は彼の朝食を準備したことがない」と話す。
「メタボぎみ」とは、具体的に聞くと「1年前に夫は急激に内臓脂肪がついたため血尿が半年続く騒ぎ」もあり、いまなお病院で注意を受けている状態だと言う。だが「安いお肉は油を使わないとまずい」し、「夫は野菜嫌いで炒めないと食べない人」だから、油不要のフライパンでもたっぷり油を使うのは「仕方のないこと」で、自分のせいではないと主張する。差し迫った夫の健康状態と毎日の食は別次元の話のようにかみ合わない。

上記は聞き書きである。この話自体がにわかには信じがたいし、口調やカギカッコの使い方次第では、もう少し違ったニュアンスも伝えられそうである。

全体に、聞き書き、調査結果の方向に主婦への嫌悪感と悪意が透けて見える気がしてしまうのは、私が主婦の一人だからだろうか。

この本全体を、まともに受け止めて、だから今の主婦はダメだとか、世の中どうなってるんだ、けしからん、というのはちょっと違うような気がする。ただ、その一方で、食に無関心な人が増えているのかもしれないとは思うし、子どものために栄養のバランスを考えて一生懸命料理する余裕を失っている親たちも増えているのかもしれないとは思う。

これは、その程度の気持ちで読むべき本ではないか。

(引用は「家族の勝手でしょ!」岩村暢子 より)

2013/3/22