サラの鍵

サラの鍵

2021年7月24日

「サラの鍵」 タチアナ・ド・ロネ 新潮社

1942年のヴェルディヴ事件、私がその名前すら知らなかった事件が、この本の題材です。
フランス政府が、ナチス占領下で、13000人以上のユダヤ人を一斉検挙して、小さな子供も男も女も屋内競技場に閉じ込め、劣悪な環境下で虐待し、そのほとんどをアウシュビッツに送り込んだ事件。手を下したのは、ナチスではなく、フランス人です。

パリに住むアメリカ人の主人公が取材するうちに、自分とその事件との意外な関わりに出会います。夫の家族の重大な秘密。そして、住むアパルトマンの納戸で起こったいたましい出来事。

過去と現代が交錯しながらぐいぐい引っ張られます。
舞台はパリからアメリカ、イタリアへまで広がり。
その一方で、現代の人間関係も、丁寧に描かれます。

読みやめることができませんでした。
つらいお話でした。夢を見てしまいそう。

でも、忘れてはいけないんだと思います。
人は、どこまでも残酷になれる。
いとも簡単に人を捨て去り、殺すことができる。
だけど、その一方で、忘れないこと、想像すること、知ること、愛することが、どんな力を持っているか。
それを私は信じたい。
そんなふうに思った小説でした。

2010/9/1