愛するということ

2021年7月24日

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「愛するということ」エーリッヒ・フロム 紀伊國屋書店

娘の部屋を訪ねたら、この本がベッドサイドに置かれていて、なんでも、とある人に「これくらいは読め」と渡されたそうな。ふうん。懐かしい。私の大学時代のドイツ語のテキストがこれであった。ドイツ語だからなのか、内容のせいなのかはわからんが、読んでも読んでもよくわからなくてちんぷんかんぷんであった。

娘は授業と部活で忙しい。一見きれいそうに見えて実は汚い部屋を掃除したり、作りおきのおかずを何種類か作って冷凍したりしてやったが、まだ時間が余るので、この本に手をだした。そうしたら、面白いのよ。若い頃はナンノコッチャ、だったのにねえ。

内容は、ものすごくざっくり言えば「嫌われる勇気」を小難しくして掘り下げた感じであった。というと言いすぎだろうか。

人は、愛されることばかり欲しがる。というのも、愛することは簡単だが、愛されることはむずかしい、と考えているからである。また、愛を得られないのは、愛したり愛されたりするにふさわしい相手に巡り合わないからであって、自分に愛の能力がないからだ、とは考えてない。・・・という指摘に、いやはや、本当にそうだなあ、と頷く。

愛が欲しいのは孤独だからである。孤独から免れるために、お祭りがあり、アルコールがあり、薬物がある。だが、一時的な高揚は、孤独を一層深めてしまう。孤独を逃れるには、誰かとの一体感が必要だ。愛は、得るものではなく、能動的に与えるものである。

ということだった、と思う。現物が手元にないからなあ。

愛するには技術が必要で、それはよく考えることである。人の考えをうのみにするのではなく、自分の内部から湧き出すような思考。そして、思考する自分を信頼すること、その勇気。それが愛することにつながる。

そうなんだよね。この歳になってつくづく思うのは、人生には、信頼と勇気が必要だ、ということ。自分を信じなければ、他者を信じることはできないし、自分であれ、他者であれ、信じるには勇気が必要だ。たったそれだけのことに気づくのに、五十年かかったんだなあ。

しかし、ハタチそこそこでこれを読んでわかるかね。少なくとも私はわからなかった。と帰宅した娘に言ったら、「ああよかった。ちょっと読んでワケワカランくて放り出してたの。そうか、わからなくていいのか。」ですと。いや、いいとはいいませんがね。でも、人を愛して、その人と長い時間を過ごして、何やかやあって、何なら子供を生んで、育てて、ごちゃごちゃあって、そんな中で、ここに書いてあることが、どんどんわかるようになるんだろうなあ、とは思う。だからこそ、今、一度通読しておくことに意味はあるかもしれないんだけどなあ。

深い本だけど、深すぎて、むずかしいかも。でも、今ならわかる。ということは、歳を取るのって、別に悪いことじゃない。

2019/6/10