嫌われる勇気

嫌われる勇気

2021年7月24日

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「嫌われる勇気 自己啓発の源流 アドラーの教え」

岸見一郎 古賀史健 ダイヤモンド社

そもそもは、NHK「100分で名著」でこの本を取り上げていたのを見たのが始まりである。15分×4回で一冊の本を解説してどれだけのことがわかるのか、とも思うが、この会は非常に興味深く面白いものだった。講師は作者、岸見一郎であった。どうやらこの本はベストセラーになったらしく、図書館に予約しても延々と順番は回ってこなかった。やっと回ってきたと思ったら、後ろに600人以上控えているという。なら買えよ、というツッコミはこの際お許し頂きたい。

アドラーはフロイトやユングと並ぶ高名な心理学者である。「人は変われる、世界はシンプルである、誰もが幸福になれる」というのがアドラー心理学の基本である。これを読んだだけだと危ない新興宗教や自己啓発セミナーの臭いがプンプンする。内容も、気をつけないと、そっち方面になだれ込みそうな危うさがある。その危うさをいかにバランスよく乗り切って、真髄を受け止めるか、が重要なポイントとなると感じる。

読んでみると、書かれていることの大半は「そうだよな」で構成されている。私は結構な歳になってしまったおばちゃんであるが、この歳になるまでに様々な経験を経る中で「なーんだ、結局そういうことじゃん」と気がつくことがたくさんあった。そして、気がつくたびに、生きるのが前より楽になった、という実感があった。そういった「気づき」がこの本には整理され、説明されている。いわば、「おばちゃんの開き直り本」じゃん、と言ってしまったら、岸見先生に怒られるだろうか。

自分に自信が持てず、出自や学歴、さらには容姿についても劣等感を持ち、過剰なほど他者の視線を気にし、他者の幸福を心から祝福できず、いつも自己嫌悪に陥り、様々な教えは単なる理想論の絵空事としか思えない。そんな青年とアドラー心理学者の対話が、この本である。と書いていて思うんだが、上記のような青年って、ほぼ全員じゃないの?少なくとも、私自身も覚えがあるし、周囲を見渡しても、若者なんてみんな多かれ少なかれ、そんなもんである。・・・と思えるようになったら、それだけで、もう、ずいぶん楽なんだけどねえ。

キーワードはいくつもある。心に引っかかったものを列記すると

あなたの不幸はあなた自身が「選んだ」もの
劣等感は主観的な思い込み
課題を分離せよ(「あの人」の期待を満たすために生きてはいけない)
ここに存在しているだけで、価値がある
自己肯定ではなく、自己受容
普通であることの勇気

あたりであろうか。

結局、自分の人生は自分のものであり、誰かの評価のために生きるのではなく、自分の存在自体を受容して、当たり前に普通に生きることを受け入れる勇気を持ては幸せになれますよ、ということ。五十年以上生きてきて、割と自然に、そう思えちゃってる部分もあるので、そうだよねえ、おばちゃん、わかるわよ~、みたいなノリで読んでしまった。

でも、思い悩んでいる若者が周囲にいるのよね。彼らに私が、それこそ「上から」何かを言ったところで、きっと伝わらない。そういう人たちに、この本をそっと渡したら、それを最後まで読み切る熱意があったら、たぶん、楽になるだろうなあ、と思う。

なんだかね。多くの人は、人間関係を縦に捉えがちなのだけれど、本当は、横なのよね。横に、広がる。誰より上だとか下だとか考えたり見積もったりするから、ややこしくなるのであって、横に並んでいたらそれでいいじゃない。と思っていても、「上から」と受け取られることが多いのは、残念だなあ。自分を下に置かれたと思いこむのをやめるだけでも、かなり楽になるだろうに。

それにしても、この本がベストセラーになるということは、こうした気づきを欲している人がそれだけいるということなのに、なんで未だにみんな上だ下だと捉えたがるんだろう。まあね、この本を読む人の人数なんて限られているし、読んだからと言って必ずしも考え方が変わるわけじゃないんだけれど。

フラットに行こうよ。と、改めて思う私であった。

2017/8/14