わたしの容れ物

2021年7月24日

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「わたしの容れ物」角田光代 幻冬舎

 

大作家、角田光代である。そう書くのは、角田さんご自身は全然自覚がないというか、まるで自分がごく普通の人間であるかのように思ってらっしゃるようだから。大作家だよ、あなたは。と一冊読むごとに唸るのだけどねえ。
 
四十五歳から書き始めた、自身の体に関するエッセイ。豆腐が美味しくなり、霜降り肉よりも赤身肉が好きになってきたあたりである。その後、老眼がかってきたり、オイリーだったはずの肌が乾燥し始めたり、手の甲が年をとったことにびっくりしたり、ぎっくり腰を経験したり、二度続けて転ぶようになったり。順調に(!)老いる様子が描かれている。最近転んだばかりの私にはまさに他人事ではない話だった。
 
若い頃は運動なんて全然しなかったし、歩かないで済むなら歩きたくなかった角田さんが、ボクシングジムに通ったり、ランニングを続けてついにはフルマラソンを二度も走ってしまったりしたと言う。わかるわ~。私も若い頃は一切運動を拒絶するタイプだったのに、五十を超えてから週に一回ずつエアロビとヨガとウォーキングに励むようになって、これが妙に気持ちいい。そればかりか、多少の距離ならバスや電車に頼らず歩いたりさえする。若い頃が元気だなんて嘘だ、残された健康のありがたさに気がついてからの方が、健康に気を配る。そういうものなんだろう。
 
ある日、自分の手の甲を見てしみがあってハリがなくてしわがあることに気づいてびっくりしたというエピソードも身につまされた。セルフイメージと現実の違いって、ある日突然気づくものだ。それも、思いもよらない些細な場所から。私も自分の足の甲の汚さに愕然とした経験があるからなあ・・・・。
 
と、妙に共感できる本であった。こうやってこれからも、徐々に「わたしの容れ物」は劣化していくんだろうなあ。大事にしてやらなければ。

2017/4/6