おさるシリーズ

おさるシリーズ

2021年7月24日

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「おさるのまいにち」以下「おさる」シリーズ いとうひろし 講談社

 

「おさるのまいにち」から始まる一連のおさるシリーズを一気に読んだ。いとうひろしさん、ごめん、私が悪かった。めんどくさい作者だなんて思っててごめんよ。すごくよかった。おさるシリーズもそうだし、他の本もそうだ。一人の作家の本をまとめて読むと、だんだんにわかってくることがある。読んでよかった。すごく良かったと思う。
 
絵本というよりも硬い表紙、サイズも小さめの幼年童話の扱いだが、絵はたっぷりある。ページ数もたくさんある。だからこそ表現できることってあるんだな、と思う。来る日も来る日も同じことの繰り返し。そんな毎日を、このページ数と絵で、ものすごい説得力を持って表現している。子どもの毎日ってそうだもんな、と改めて思う。
 
うみがめのおじさんがゆっくりとゆっくりと近寄ってくるところも、ものすごくたくさんのページを使って丁寧にわからせてくれる。この時間の取り方。ゆったりとした世界に入り込む「間」を十分すぎるほど十分にとってある本の世界。
 
とてもとても大きな船。どこを見ても海。山を登っても登っても、まだ山。そういう捉えきれないほど大きなものも、ゆったりと見せてくれる。そのために、この形、このサイズ、この絵があるのだとわかる。
 
おさるはまだ子どもなのだが、とても自立している。そして、まだ自立していない妹へのまなざしがいい。妹の中に過去の自分を見ながら、それでも自分とは違う存在なのだと理解している。自分とは何なのか、妹とは誰なのか、おさるとは何なのか、この島はどんな島なのか。哲学のようではありながら、まだ子どもの彼の理解と語彙の範囲で、それらは深く深く考えられていく。
 
海を知ろうとバナナを三本もって、丸太の船でおさるは海に漕ぎだす。バナナを食べ尽くしても、海は終わらない。眠って、目がさめても、海は終わらない。そして、島に戻ろうと決意しても島が見つからない。ものすごく怖い状況なのに、おさるは怖がらない。おお、どこまでも自立し自己を信頼するおさるよ、と私は感嘆する。そこにうみがめのおじいいさんが現れる。そして、おさるを島に連れて行ってくれる。最後におじいさんは語る。海の真ん中で友達に会えてうれしいやら驚くやら、と。
 
読んでいた私にとって、助けられたのはおさるである。が、うみがめのおじいさんは、友だちに会えて嬉しかった、というのである。おさるが存在することの絶対的な価値に、私は胸打たれる。
 
この一連の本は、実に深いのではないか、と私は思う。でありながら、小さな子どもたちにきちんと伝わる、楽しませる。何度読んでも、いくつになって読んでも、そのたびに新しいことを考えられるような気がする。

2015/2/17