幼ものがたり

幼ものがたり

2021年7月24日

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「幼ものがたり」石井桃子 福音館文庫

 

1977年4月から1978年5月まで「子どもの館」に連載した記事に加筆訂正したもの。石井桃子、七十歳頃の作品である。
 
題名通り、石井桃子が幼かった頃の思い出話を書いたエッセイである。就学前のごく幼い頃から、小学校に通い始めるくらいまで。何人もの姉や家族や家族同然の親戚、隣人、友人が登場する。名前や職業が定かで無い分に関しても執筆中に浦和の生家周辺を訪ねて確認したりしている様子が伺える。明治最後の頃の子どもたちの暮らしぶりがいきいきと描かれている。
 
それにしても70歳で2歳から6歳頃の思い出話を書けるのってすごい。どれだけの記憶力なのだろうと感嘆してしまう。私の最古の記憶は幼稚園時代かも。それもおぼろげで、人の名前なんててんで思い出せない。
 
石井桃子はたくさんの作品を残したけれど、自分についてはあまり語っていない。恋愛などは霧の中だ。しあわせな幼少期を過ごした人なのだな、とこれを読むとわかる。人にプライベートな何事かを語らなくとも、自分の中で昇華し、満たされるものを持っていたのかもしれない、と改めて思う。何でもべらべらしゃべっちゃう私とは大違いだわ。反省しよう。

2015/3/18