抗がん剤は効かない

2021年7月24日

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        「抗がん剤は効かない」近藤誠 文藝春秋

とある身内が乳がんになって、ごく最近手術を受けた。術後の治療方針は、まだこれから決まるところである。標準的にはホルモン療法か化学療法が行われるそうだ。どちらになるかは、摘出した患部の検査によって決定されるらしい。

そんな状況の中で、この本を読んだ。近藤先生の著作は十数年前にも読んだことがあって、どうやら抗癌剤というのはいろいろ問題大アリだぞ、という基本認識はあった。が、改めて読むと、やはり問題は山積している。というか、簡単に言っちゃうと、統計的、客観的に見る限りあんまり効かない、ってか殆ど効いていない。にもかかわらず、癌の標準治療に抗癌剤はガッツリと組み込まれている。

抗癌剤によって余命が伸びたとされているのは、実は精密な検査によってごく初期で癌が発見されるようになったからである。癌の診断を受けてから、死に至るまでの時間が長く計算されるのは、以前よりも早く診断されたことによるタイムラグが大きい。また、余命が伸びたことは統計の取り方に大きなトリックがあるということも指摘されている。

いま、団鬼六の食道癌の闘病記を読んでいるのだが、そこにも抗癌剤の治療の死んでしまいたいほどの辛さが書かれている。癌そのものの辛さよりも、治療のほうが辛く、体力は激烈に落ちていく。しかも、それが癌に効くのはうまくいって二割程度。効くか効かないかはギャンブルみたいなものだとしたら、本当にそれを標準治療としていいのだろうか。

大好きだった勘三郎も死んだ。癌は治っていたそうだ。術前に抗癌剤で患部を小さくしてから手術を受けたというが、その治療のために体力、免疫力を落としていたことが術後の肺炎につながったのでは、と指摘する医師が何人もいる。がん治療は成功しました。患者は残念ながら亡くなりましたがね、という記述を十数年前に何処かで読んだ。もしかしたら、近藤先生の著作だったのかも。それ以来、私は抗癌剤って大丈夫?とずっと疑い続けている。

近藤先生の経歴を知りたくて、Wikipediaを調べたら、なんと「近藤誠」の項目がない。こんなことってあるのか?びっくりだ。彼の記載があると困る人がいるのだろうか。

近藤先生は、ずっと抗癌剤批判を続けている。それによって彼は医学会で異端児となり、居場所がなくなっているし、何の得もしていない。一方、抗癌剤を擁護する側は、それによって大きな利益を得続けている。その構図を見るにつけても、複雑な気持ちになる。少なくとも私は近藤理論に対する反論で、納得するだけの裏付けのあるデータを見たことはない。であるのに、世の中のほとんどの医師は抗癌剤を使っている。それを、私たちはどう捉えるべきなのだろうか。

身内の術後治療に抗癌剤が提案されたとき、私はどうすべきなのだろう、と考えている。高齢なのでそこまできつい治療を受けなくても、とアドバイスしようかとも思う。しかし、私は医者ではないし、研究者でもない。そして、抗癌剤治療を拒否して再発、転移した時に、それは何のせいだったのかを確かめることもできない。

何が正しくて、何が本当なのか。私自身が癌になったとき、私は何を選択するのだろうか。私は迷うばかりである。

2013/3/14